くまの文具店

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 向き合って顔を見て、これは、とせりかは胸を弾ませた。  思っていた以上に可愛い。かっこいいと可愛いが半分ずつあるような顔。  これは、彼は女子にもてることだろう。  こんな見た目の良い男子から告白される日が来るとは。  せりかの胸はより一層高鳴った。  どうしよう。すごくうれしい。 「あの……」  彼が口を開いた。  せりかは思わず息を止めた。言われる。ついに告白される。 「ぼく、茂木翔太です」 「……」  名乗られた。茂木翔太。そうか。彼はそんな名前なのか。  名乗られたせりかは、とりあえず黙っていた。  名乗られた。それで、続きをどうぞ。  しかし彼も黙っている。というか、名乗ってから黙ってせりかの反応を待っている。  名乗って、反応を待っているということは、彼はせりかが彼の名前を知っていると思っているのだろうか。  そう考えて、せりかは頭の中で彼の名前をつぶやいた。  茂木翔太。茂木翔太。  だめだ。まったく覚えがない。 「あの、茂木翔太です」  一向にせりかが反応を示さないので、彼は再び名乗った。  今度は不安そうな目でせりかのことを見ている。 「先輩。熊野先輩って、くまの文具店、ですよね」  急に彼の口からせりかの家の店の名前がでてきて、せりかはびっくりした。 「えっ。そうだけど」  肯定すると、とたんに彼の顔がぱっと輝いた。 「そうですよね、やっぱり!」  せりかの家はくまの文具店という名前の文房具屋だ。  今もせりかの祖父が経営している。せりかの家の店を知っているということは、彼はきっと、くまの文具店に来たことがあるのだろう。 「先輩。僕、小学生のころ、くまの文具店によく遊びに行っていたんです」  せりかの家の文具店は文房具だけでなく、駄菓子も扱っていたため、子供がお店に来ることはよくある。  彼もその子供の1人だったのだろう。
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