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Episode4.黄色と青の宝石
木の根元にある大きな洞の中に潜り込んで、赤ばらはほっと一息吐きます。たった一人着の身着のままで家を出た時と違って、今はウルラと母親の形見があります。それがとても心強く感じられました。まだ不安は残っていますが、きっと大丈夫、そう思えました。
安心したからでしょう。赤ばらのおなかが鳴りました。可愛らしい音に赤ばらは顔を赤らめました。
「あらあら、ご飯のことを忘れていたわ! ごめんなさいね。」
ウルラはばさりと羽ばたいて赤ばらの正面に移動して続けます。
「髪留からご飯を出しましょうか。」
「えっ?」
「まだ熟練度が低いから、種類も量も大したこと無いと思うけど…」
そう申し訳なさそうに言うと、ウルラは髪留の能力について説明を始めた。
ウルラ曰く、黄色の宝石は秋の実りの色なのだそうだ。一日三食分の食事を出すことができるのだとか。
「まあでも、今はまだ、パンくらいしか出せないと思うのよ…」
人間だったらきっと眉尻が下がっているだろう、しょんぼりした様子のウルラと打って変わって、
「まあ! パンが出せるなんてすごいわ!」
赤ばらははしゃいでいる。その姿に、今までの境遇がどれほど不遇だったのかと思い至りウルラは胸が痛んだ。
「もう一つ、青い宝石は水や氷系の魔法が使えるようになるわよ。やっぱり熟練度が低いから水が少し出るくらいかしらね。でも、飲み水にはなると思うわ。一度使うと、次に使えるようになるまで一時間くらいかしらね。」
気を取り直して、ウルラは今必要と思える青の宝石についても説明した。赤ばらの瞳はきらきらと輝いている。
「eauと唱えれば水が、mannaと唱えれば今はパンが出てくるわよ。早速試してみて。」
ウルラから呪文を教えてもらった赤ばらは、まずはパンをだした。出てきたのはたった一つだけだったが、ふかふかで温かく、いい匂いのする白いパンに赤ばらはとても幸せな気持ちになった。こんなにおいしそうなパンは、見たことが無い。本当のお母さんが居た頃も、黒くて少しパサパサしていた。それでも黒ばらたちが来てからの食事に比べたら遥かに良かった、と思っていたのに。
「うわあ! すごい、すごい! 食べるのがもったいないくらい!」
「食べない方がもったいないわよ。」
パン一つで喜ぶ赤ばらに、ウルラは優しく言い聞かせた。そっか、と赤ばらは頷いてパンにかぶりついた。柔らかいパンは、ほんのり甘く感じた。咀嚼して呑み込んで、またかぶりついて。赤ばらは無心にパンを食べた。涙がぽろぽろと流れてくる。
ウルラは赤ばらの肩にそっと移動した。そうして赤ばらに優しく寄り添う。たったこれだけのことで涙が溢れるほど、追い詰められていたのだろう。
「もっと早く会いに来てたら良かったわね…」
ウルラは胸が締め付けられる思いを吞み込むように、声に成らないほど小さく呟いた。
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