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当日
翌朝は雨だった。
凛花はがっかりして、アンバーを抱きしめて窓の外を睨んだ。
雨粒は小さかったが、ピクニックは中止になるに違いない。だって私たちは入院してて、病気で、そしてとても繊細に生きなければいけないから。
*
もう。なんなのよ。一昨日までは晴れって言ってたじゃない。昨日だって曇りのち雨って。雨は午後からだって。
藤野は天気予報に腹を立てつつ、降ってしまったものは仕方ないかとため息をつく。子どもたち、残念がってるだろうなと思いながら杜崎医療センターに向かうと、駐車場で異変に気づいた。
何だか車が多いし人が多い。ロビー前に人だかりができている。
職員用の駐車場に車を止め、職員用の入り口から入ると、中は慌ただしさに満ちていた。いつもなら不必要なぐらいに明るい室内が、薄暗い。停電になっているようだった。
「どうしたの、何があった?」
藤野が聞くと、呼び止められた病院職員は戸惑った顔で肩をすくめた。
「よくわからないんですけど、こっちのサーバーがダウンしたらしくて。今、新病棟に患者さんたちを緊急移送してるところです」
「サーバーダウン? 停電でもあった? 事故?」
藤野は続けて聞いてみたが、彼女はよくわからないんですと困惑した顔で言った。
仕方なく、藤野はいつもどおり自分のデスクに向かった。PCは使わないようにという注意があちこちから聞こえ、またPCにも紙が張ってあった。それはマジックで書いてコピー機でコピーしたもののようだった。
これは短期間のものなのか、それとも長期にわたるものなのか、それさえもよくわからなかった。バックアップファイルがあるから大丈夫だという噂も聞こえたが、そう簡単に復帰できるものでもなさそうだというのが、大多数の予想のようだった。
いつもなら午前中の院内学級のための準備をするのだが、今日はそうもいかないようだ。藤野は慌ただしい周りを見て、小児病棟はどうなっているのか聞いてみた。常に管理が必要な子どもたちは既に新病棟に移っていて、あとは緊急性の高い患者さんから順番に移動しているという話だった。
藤野は子どもたちがストレスをためているんじゃないかと、小児病棟に顔を出すことにした。
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