当日

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 *  杜崎医療センターは、地域に根ざした医療施設として60年の歴史を持っていた。しかし医療技術の進化、地域の活性化による患者数の増加もあり、新しい病棟が建つことになった。その除幕式があったのが10日ほど前。  先に目玉である先端医療部門が新病棟で開業し、検査室やVIP室も同時に開いた。検査の多くも新病棟で行われ、旧病棟にはわずかな職員しか残っていなかった。彼らも今月中にはすべて移転完了予定だったから、本館の停電とサーバーダウンは大きな痛手にはならなかったとは言うものの、病院としては少々パニックになったし、困った事態ではあった。  院長の杜崎杜崎は腹立たしく思いながら、旧本館の指定エリアにベンツを停める。事務長の畑山が朝からうるさく指示を仰いできたが、そういうことをテキパキ処理してくれるのが事務長の仕事だろうと怒鳴ったら、パタリと電話が止まり、それもまた不安を掻き立てた。  杜崎家は旧家で歴史ある名家だ。今どき世襲はどうのという声もあるが、少なくとも自分の息子までは継がせたい。だからこそトラブルは厳禁だ。  杜崎はゆるめていたネクタイを締め直し、ホルダーに置いていたスマホを取った。経理をさせている甥からメッセージが着信している。旧本館と新病棟とは回線が全く別だから大丈夫だと言っているのに、怯えて何度も確認してくる。  クソ。役に立たないヤツらばかりだ。  杜崎はベンツから出て電子錠をピッと鳴らすと、急いで旧本館入り口へと小走りに向かった。まとわりつくような小雨が鬱陶しい。  そこで斜め横から黒豹かハスキー犬が飛びかかってくるのを感じた。思わず足を止めようと思ったが間に合わず、横から衝撃を受けて地面にふっ飛ばされた。
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