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くそ、まだ頭がガンガンするし、実のところ、わけが全然わからない。
俺は3階の西廊下に向かいながらも、心の中では戸惑っていた。
目が覚めたら鉄の棺桶に入れられていて、何だと思ったらそこは掃除道具入れのロッカーで、何とかガタガタやって出てみたら、人気のない建物にいて、朝日が差し込んで目が痛かった。
どこだここ?と思いながらよろよろと建物を出たら、駐車場があった。
ベンツE350が見えて、血がふわっと沸くような感覚に襲われた。周りの雑魚と違う風格のある佇まいに興奮したのかもしれない。そこから降りてきた人物と、その背後で、一般車の間から出てきた人物を見て、やべぇと思った。
理屈じゃない。本能でやべぇと。
既に足は走り出していて、脳みそはついてきてなかった。
ベンツから降りてきた方にタックルして、そしてそのままそいつと建物の中に向かった。そいつが腰につけていた無線キーで建物の入り口が開くこともわかっていた。
なんでわかっていたのかは、わからない。何だかわかったのだ。
とにかく逃げないといけないと思った。背後からの発砲音は危機を知らせていた。振り返ると、襲撃者は下手くそな作りの手製銃に反抗されて、自分の腕を吹き飛ばしそうになっていたが、何とか大怪我は逃れたらしい。おまけに暴発の反動で、こっちにその銃が転がってくる始末。
俺はその黒い銃を拾った。だって危ないだろ?
助けた小太りのおっさんを連れたまま、俺は建物の中にいる奴らに怒鳴った。
「死にたくなかったら、外に出ろ」
一瞬ポカンとした奴らがバカに見えたので、俺は持っていた銃っぽい形をした手製銃を振り上げた。
「ぶっ殺すぞ、てめぇら。さっさと逃げろ」
振り返ると、右半身と顔の一部を血に染めた背の高い奴が俺たちが入ってきたドアから入ってくるのが見えた。ドアのところにおっさんの靴が挟まれていて、オートロックが効かなかったらしい。
おっさんは半分意識がないみたいにぐったりしてるし、俺は逃げてく大勢の方に危ない奴を近づけないためにも、重い荷物を運びながら反対側へと進むしかなかった。
そうそう、誰かが俺の荷物を見て「院長!」って呼んでたから、こいつは院長だとわかった。
院長。ここ病院だな。そういや内科とか外科とか書いてある。
院長をバックヤードにつながるドア付きの非常階段に放り込み、俺はMr.ハンドメイド・ガンと対峙した。
しかし向こうは手製とはいえ、飛び道具を持っている。
俺は暴発後の手製銃と、そこにあったモップの柄しか握ってなかった。我ながら、これで何とかできると思ってるのかと冷静な脳が聞いたが、意外とモップはそのモジャモジャしたところで、Mr.ハンドメイド・ガンの視界を奪い、突き倒すことができた。
しかし優勢でいられるのは一瞬だとわかっていた。俺はその後、必死で逃げた。走っているうちに病院の構造が脳みそに浮かんできた。あの角を曲がれば死角になる検査室がある。そういうことが、プログラムみたいに自動で出てきた。
そして何とか奴を撒くことができ、院長を見に行こうと思ったら、別のおっさんがいた。
仲間に連絡してるみたいだが、背中ががら空きだったので背後から近づいてスマホを奪った。そしたらすげぇ勢いで反撃してきた。こっちは飛び道具なしの肉弾型だった。
警官だってのは本当かもしれない。
でもな。わかんねぇ。いや、一番わかんねぇのは別のことだ。
俺、ここで何してんだ?
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