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 明日はピクニック。  お気に入りのこぐまの『アンバー』を抱いて、凛花は小さなリュックを枕元に置いた。中にはお気に入りのタオルと、いつもの薬。  アンバーはこぐまの形をしている赤ちゃん用のリュックだった。もう凛花は赤ちゃんじゃないからリュックとしては使ってないけど、ずっと大好きで、入院中の心強い仲間でもある。アンバーのリュックの紐だった部分には、ママがアンバー用のリュックをつけてくれた。凛花とおそろいのピンクのリュックだ。  凛花は窓を見た。今日は晴れだけど、明日はどうかな。曇りのち雨って天気予報では言ってたけど。  四人部屋のベッドのうち、2つが埋まっている。先月までは3つ埋まっていた。凛花の隣にいたモネお姉ちゃんが死んじゃったから、今日は2人。お姉ちゃんもピクニックを愉しみにしてたのに、行けなかった。  もうひとりの同じ部屋のマサシ君は、咳が良くなってないから行けないって言ってた。これも残念。夜、咳をしていて辛そうだった。今はお薬で寝ているみたい。  小さくノックがあって、半開きだったドアに人がいた。 「窓のお掃除です」  薄緑の服の男の人が入ってきた。バケツにモップと洗剤みたいなのと、よくわからない道具が入っている。  病室には滅多に知らない人は来ない。だから凛花はこういう業者の人が好きだった。電気工事の人とか、点検の人とか、お掃除の人とか。 「今日、外もお掃除する?」  凛花が聞くと、ガチャガチャと音を鳴らしながら入ってきた人は、凛花の横の窓をまずは洗剤で拭きながら、「するよ」と振り返って言った。  優しそうな笑顔の人で、凛花は笑みを浮かべた。 「おじさん、あのブランコみたいなのにも乗ったことある? 怖くない?」  すると薄緑色の服のおじさんは、背中で笑った。 「最初は怖いけど慣れるよ」  凛花は、清掃員が窓用のモップを手際よく動かすのを見る。それから水滴を取るゴムのスクイーズをくるくる回転させていく。すごい。  芸術的な動きに凛花は見惚れる。 「サンタさんも外から来るんだよね。見たことある?」 「ん……ゴンドラで運んでるのは見たことないな」 「いいなぁ。私も外のブランコに乗りたい。サンタさんにお願いしようかな」  凛花が言うと、おじさんは背中で笑った。 「そんなお願いでいいの?」 「うん」  凛花は強く答えた。おじさんが別の窓に移り、凛花を振り返った。 「明日は遠足?」  おじさんがリュックに気づいて聞く。 「うん、中庭でピクニック。晴れたらいいんだけど」  凛花がそう言うと、おじさんは掃除道具の中のもので『てるてる坊主』を作ってくれた。ボールペンで不織布の頭に目を書いてくれる。 「笑ってる顔にして」  凛花が言うと、彼は大きな円弧を書いてくれた。満面の笑み。 「すてき」  凛花はベッドの上で跳ねるようにして喜んだ。  でも窓に引っ掛けるところがなかったので、おじさんは凛花のベッド脇の棚に置いてくれた。  それから少しお話をした。おじさんも仕事の休憩がしたかったのかもしれない。 「もう行かないと。明日、晴れるといいね」  おじさんは時計を見て、そう言って部屋を出ていった。
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