悪魔の弾丸

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悪魔の弾丸

「へい!ラッセル!仕事だよ!」 明るすぎる声が、暗く殺風景な部屋に響いた。 酒で麻痺した脳みそに、彼女の声は教会の鐘のように強烈に響いて(わずら)わしい… 「全く、ここはいつ来ても陰気な部屋だな…まるで悪党の潜伏先だ。 ほら!仕事だって言ってるだろ!早く支度しろ!」 俺の眠りを(さまた)げた乱入者は乱暴に毛布をひっぺがすと、上着を投げつけて外に促した。 彼女が来るのは決まって急だ。 依頼を(もら)った時だけ、相棒の俺を頼ってやってくる。 「ほら、早く用意しろよベイビー!あんたの命がかかってんだ!してる時間はないだろ?」 ノロノロと活動を始めた俺に、ふざけた文句を吐く相棒が拍車をかけた。 「分かってるよ…うるせぇな…」 どうせ俺に拒否権は無い。相手は俺の命綱を握ってる悪魔だ… (うなが)されるままに、眠い(だる)さと酒の頭痛を抱えたまま、支度をして部屋を後にした。 カンカンと安く鳴り響く、鉄板を敷いた螺旋(らせん)階段を降りながら、肩からずり落ちそうになる仕事道具を(かつ)ぎ直した。 外の空気は冷たく、外に出たことを後悔させるのに十分だ。 寒いのは苦手だ… 仕事に支障が出る前に、指先の感覚を守ろうと、手をポケットに避難させた。 「で?仕事は?」 「せっかちだな、ラッセル。実に野暮ったい男だ。 仕事の内容が知りたくば、このメアリー様のご機嫌を取る事だな!」 また悪魔らしい理論を… 前を行く華奢(きゃしゃ)な背中と馬の尾のように揺れる黒髪を(にら)みながら、口を(つぐ)んだ。もう話すのも煩わしい… 彼女は街灯の並ぶ大通りに出ると、夜でも目立つ黄色いタクシーに向かって手を振って停めた。

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