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赤、黄、橙。
カラフルな落ち葉で地面は彩られている。
そんな自然のカーペットを踏みしめてだらだらと登校していると、一際目を引くサッカー部の集団がぞろぞろと校門前を駆けていった。
「ちー、おはよ!」
「おはよう」
その後方で数人とじゃれ合いながら走っていた木嶋太陽が、唐突に声を張り上げて手を振ってきた。
名前を呼ばれているから無視するのもはばかられて、わたしは小さく返事をすることしかできなかった。
か細い声はちゃんと届いたのだろうか。
そう思ったのもあっという間。
名前の通り眩しい笑顔を弾けさせて、太陽くんは周囲に肩を叩かれながら走り去っていった。
いつも明るくてクラスの中心にいるような人気者、それが太陽くん。
彼のことは中学校が同じだったから一応存在は知っていたけれど、高校二年生になって初めてクラスが同じになった。
なぜだかよくわからないけれど、わたしなんかに頻繁に話しかけてくる唯一の男の子。
それが少しむず痒くて、居心地が悪い。
(ほんとは、ちーって呼ぶのやめてほしいんだけどな)
あのひとに似た呼び方は、あのときの恋心を思い出す。
呼ばれる度にズキンと胸が傷んでいるのを、彼はきっと絶対に知らない。
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