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「珍しいよね、千穂が男子のこと下の名前で呼ぶの」
「確かに、太陽だけだよね」
ゆうちゃんとしのちゃんが、お昼ごはんの菓子パンを片手にそんな話で盛り上がる。
男女問わず、先生ですら太陽くんのことは下の名前で呼んでるし。
ゆうちゃんもしのちゃんも呼び捨てにしてるんだから、別にわざわざ話題にするようなものでもないのに。
「で、実際どうなのよ?」
「気になる〜とかないわけ?」
にやにやしたゆうちゃんが、身を乗り出して聞いてくる。
「何もないけど」
「えー、じゃあ何で男嫌いの千穂が太陽だけ下の名前で呼んでるの?」
「それは……」
勢いに押されて言い淀むと、今度はしのちゃんまでわたしの机に肘をついて興味津々のご様子。
おもしろくもなんともないのに。
まるで取り調べを受けているかのような。
ため息をひとつ吐き出しても、キラキラと瞳を輝かせたふたりは「早く白状しろ」と無言で訴えかける。
「……本人がそう呼んでほしいって言うから」
ぽそり、まるで言い訳をするみたいに呟くと、ふたりはきゃーっと手を取り合った。
「それって!」
「もしかして!」
「お前らいい加減にしろって」
はしゃぐふたりを遮って、太陽くんが呆れたようにそう言いながら教室に入ってきた。
きっと廊下まで聞こえちゃってたんだろうな。
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