はじまり

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はじまり

 月曜日の朝には、終わりと始まりが共存している。  休日の解放感が集束した先の、どこにも行けない一本道。土日の間あんなにバラバラだった人々の人生は、月曜の朝に帰着する。わたし達はここからまた、自動的に事務的に窮屈な日々に戻っていくのだ。  いくら日曜日をぐうたら過ごしていても、何故か一際疲れを感じる月曜の朝。  これから始まる一週間が列をなして待ち構えているようで、それを考えると気持ちは重たかったが……外に出て太陽を浴び、青々とした空気を吸えば、心が凪いでやる気に満ちてくる。自分がリセットされるような清涼感。  わたしは月曜が好きではないが、来るべきものとして受け入れていた。  きっと誰もがそうだと思う。月曜日にうんざりして、いつも通りの始まりにどこか安堵している。そんなものではないだろうか。  そして今日。またいつも通りの月曜日が巡って来た。のだが……  朝起きた時から、どこか心がざわめくような違和感を感じていた。この月曜日はいつもと違うぞ、と、わたしの脳みそ以外の全てが気付いているようだった。遅れを取っている脳みそで考えるに……さっぱり分からない。何が違うかは明確ではないが、間違いなく、何かが違うのだ。  時刻は午前8時半。街ではスーツ姿のサラリーマンやOLが忙しなく競歩している。わたしは勝敗の無いその勝負から一人外れて立ち止まり、鳩が鳴く青信号、横断歩道の真ん中で、呟いた。 「月曜日らしくない……」  それは殆ど無意識に、口から溢れ出たものだった。が、その瞬間、世界が凍り付く。サラリーマンもOLも子連れの主婦も学生も、一様に足を止めて、その虚ろな目をわたしへ向けた。見つめるでも睨むでもなく、ただ異物を検知したとでもいうような視線は、無機質な防犯カメラに似ている。  わたしは足元が不安定になるのを感じて、下を見た。そして悲鳴を上げる。  なんと驚いたことに、横断歩道の黒い部分が底なし沼のようになり、そこに立つわたしを呑みこんでいるではないか!  白い部分しか渡っちゃいけないと、子供の頃は知っていた筈なのに。  大人になるとどうして忘れてしまうのだろう。  そうしてわたしは、いつもと違ういつもの朝から追い出された。
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