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朝7時にバイトが終わると、俺は一刻も早く部屋に戻って睡魔に身を委ねたくなっている。
でも俺のバイト上がりを待っている奴もいて、俺が店から出ると、そこでたむろしていた派手な服の男女が手を上げた。
「よぅ、ユノ。ちょっと顔を貸せや」
リーダー格の銀髪の男が言う。全員で5人。男が3人、女が2人。髪の色でナントカ・レンジャーが完成しそうなカラフルさ。
俺は息をついて、14-5のそいつらを見る。俺もこの年頃のときに街をぶらついてたから、気持ちはわからなくはない。でもその先にあるものも知ってる。
「俺はおまえらより、けっこう年上なんだぞ。少しは敬意を払え」
「タバコやるから、話聞いてくれよ」
ジュンが1本出しながら言い、俺はそれを受け取った。火ももらう。
別にタバコが買えないわけでも、欲しかったわけでもないが、俺は煙の向こうにいる奴らを見た。
「で、何?」
そう聞くと、ジュンは細い眉の下の目を上げて俺を見た。
「セリが妊娠したんだよ。で、産むって言ってる。俺らは堕ろしたほうがいいって説得したんだけど、嫌だって。あんたの話なら聞くかもだから、一緒に来てほしいんだよ。説得してほしい」
ジュンが言い終わる前に、他の4人が口々に補足説明を入れる。
「待て待て。代表して1人が喋れ。誰の子?」
「オ・シフ」
「レイプ?」
「いや、愛し合ってたってセリは言ってる」
でも嘘だとか、騙されてるとか外野が言う。俺もそう思う。ヒゲがトレードマークのオ・シフはあらゆる女に手を出しては捨てるのをライフワークにしている。とうとう14の少女にも手を出したってわけか。
「オ・シフは知ってるわけ?」
「知ってたらセリを殺すよ」
ジュンが声を落とし、確定した事実みたいに言う。そして俺もそう思う。オ・シフは単純な男だから、面倒なことがあるとすぐに人を殺す。今までに1人殺して、2,3人を半殺し、無数の人間を病院送りにしている。公式でそれだから、非公式にはもっとやってる。
「セリは今どこに?」
「カノンのとこ」
俺はちょっと考えた。ピンとくる奴の顔が浮かばない。
「カノンって誰?」
「ユノ、カノン知らないの? ムショにでも入ってた? 拓良でカノン知らないってモグリだよ」
ジュンに言われて、俺はタバコの煙を吐く。
「で、誰なんだよ」
「紹介する。来て」
「昼からでもいいか? 3時間寝かせてくれ」
そう言うと、ジュンは大きなため息をついた。
「足し算できる? 今から3時間なら10時だろ」
「飯と風呂。少しはゆっくりさせてくれ」
「仕方ないな、これだから年寄りは。俺のとこで寝る?」
「ダンボール箱の中で? 帰って寝るよ。12時に戻る」
「絶対?」
ジュンが疑い深く聞く。裏切られてばっかりいると、そういう癖がつく。
「Hey,Siri. アラームセット、11時半」
俺がスマホに言うと、スマホが『アラームを11時30分にセットします』と宣言した。
「OK?」
俺が言うと、ジュンはまだ不安そうにしたが、とりあえずうなずいた。
俺は短くなったタバコをスニーカーの靴底で消した。
「じゃぁ、後でな」
「来なかったら、家に押し入るからな」
ジュンが言って、俺は彼らに手を振って背を向けた。
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