3/8
前へ
/46ページ
次へ
 *  アラームに起こされるのも十分不快だが、それより先に誰かに起こされるのもめちゃくちゃ腹が立つ。  枕元に置いたスマホが振動している。でも、それに気づかないふりで俺は目を閉じ続ける。今が何時で、あと何時間眠れるかを確かめたくもない。  一旦、電話は切れ、それから2度震えた。3度目、俺はスマホを取った。  表示は『アヤカ』だ。  時間は10時過ぎ。何だよ、あと1時間半待ってくれたら。  俺は緑のボタンに触れた。ついでにスピーカーにして、スマホは布団の上に放り出す。 「おはよー、夜勤明けに悪いんだけど、ちょっと詐欺のお手伝いしてくれない?」  明るい声が言う。 「昼から予定が入ってる」  俺は枕に頭を乗せたまま、もう一度目を閉じて答えた。 「それ、キャンセルして。こっちの用の方が大事」 「先約、って言葉知ってる?」 「ユノ、ボスって言葉知ってる?」 「いや、俺、あんたの部下じゃねーし」 「あ、そう。じゃぁ難波に連絡して、強制的に連行するけどそれでもいい?」  汚ぇな。脅迫じゃねぇか。  俺は数秒考えた。 「ユノー、ユノー? 起きてる? もう寝ちゃった? 難波呼んでいい?」  アヤカが電話の向こうで騒いでいる。 「あのさ、オ・シフを殺すって仕事ない?」  俺が聞くと、アヤカは笑った。 「そんな仕事あるわけないでしょ。あんたは殺し屋のつもり? ギャングの派閥争いに参加してるの?」 「いや……じゃぁ、逮捕でもいい。しばらく奴が拓良にいなければいい」 「そういうことは、警察に頼んでくれる? あんたが持ってるネタを提供すれば、オ・シフなんて一発アウトでしょ。それより、あと30分で、その汚い部屋を出てほしいんだけど。服は、ちゃんとしたスーツでね」 「スーツなんか持ってない」 「嘘。買ってあげたでしょ、去年」 「正月に捨てたやつ?」 「捨てたの? クリスマスにあげて正月に捨てたの? なんてこと!」 「破れたから。酔っ払った難波さんと、ちょっと揉めて」 「捨てたの? あれいくらしたと思ってんの? アルマーニよ!」 「アルマーニって車の名前じゃなくて?」  アヤカが向こうでブチギレている。壁に向かって怒鳴っているんだろう。  それからしばらくして、深呼吸しながらアヤカが戻ってきた。 「ユノ、いいから聞いて。15分後に『ホワイトハウス』に来なさい」  アヤカはそう言って電話を切った。  拒否権はなし。  俺はもう一度スマホの時間を確認し、それから起き上がった。  クソ。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加