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アラームに起こされるのも十分不快だが、それより先に誰かに起こされるのもめちゃくちゃ腹が立つ。
枕元に置いたスマホが振動している。でも、それに気づかないふりで俺は目を閉じ続ける。今が何時で、あと何時間眠れるかを確かめたくもない。
一旦、電話は切れ、それから2度震えた。3度目、俺はスマホを取った。
表示は『アヤカ』だ。
時間は10時過ぎ。何だよ、あと1時間半待ってくれたら。
俺は緑のボタンに触れた。ついでにスピーカーにして、スマホは布団の上に放り出す。
「おはよー、夜勤明けに悪いんだけど、ちょっと詐欺のお手伝いしてくれない?」
明るい声が言う。
「昼から予定が入ってる」
俺は枕に頭を乗せたまま、もう一度目を閉じて答えた。
「それ、キャンセルして。こっちの用の方が大事」
「先約、って言葉知ってる?」
「ユノ、ボスって言葉知ってる?」
「いや、俺、あんたの部下じゃねーし」
「あ、そう。じゃぁ難波に連絡して、強制的に連行するけどそれでもいい?」
汚ぇな。脅迫じゃねぇか。
俺は数秒考えた。
「ユノー、ユノー? 起きてる? もう寝ちゃった? 難波呼んでいい?」
アヤカが電話の向こうで騒いでいる。
「あのさ、オ・シフを殺すって仕事ない?」
俺が聞くと、アヤカは笑った。
「そんな仕事あるわけないでしょ。あんたは殺し屋のつもり? ギャングの派閥争いに参加してるの?」
「いや……じゃぁ、逮捕でもいい。しばらく奴が拓良にいなければいい」
「そういうことは、警察に頼んでくれる? あんたが持ってるネタを提供すれば、オ・シフなんて一発アウトでしょ。それより、あと30分で、その汚い部屋を出てほしいんだけど。服は、ちゃんとしたスーツでね」
「スーツなんか持ってない」
「嘘。買ってあげたでしょ、去年」
「正月に捨てたやつ?」
「捨てたの? クリスマスにあげて正月に捨てたの? なんてこと!」
「破れたから。酔っ払った難波さんと、ちょっと揉めて」
「捨てたの? あれいくらしたと思ってんの? アルマーニよ!」
「アルマーニって車の名前じゃなくて?」
アヤカが向こうでブチギレている。壁に向かって怒鳴っているんだろう。
それからしばらくして、深呼吸しながらアヤカが戻ってきた。
「ユノ、いいから聞いて。15分後に『ホワイトハウス』に来なさい」
アヤカはそう言って電話を切った。
拒否権はなし。
俺はもう一度スマホの時間を確認し、それから起き上がった。
クソ。
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