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ホワイトハウスというのは、アパートから少し行ったところにあるクリーニング屋で、アヤカに指定されて行くと、その時に応じた服を貸してくれる。返せないときもあるけど、別に怒られたりしない。
全力で走ってホワイトハウスに行くと、受付のお婆さんは目を細めて俺に紙袋をくれた。はいはい、聞いてますよ、と。
俺はそれを受け取り、ホワイトハウスのトイレを借りて、安い白シャツの上に、そこそこ高級そうな生地のスーツに袖を通す。下はジーンズだったけど、スラックスに変わる。
なんで詐欺師がまともな格好をするのか、ってぇと、だいたい詐欺ってのは信用第一だからだ。アヤカがなんで詐欺をしたがってるのかはわかんないけど、そんなことは俺には関係ない。やれって言うからやる。たぶん、俺にも利がある。そういうところは、ちゃんと押さえてる。
アヤカから来た新着メールには、場所と時間が書いてあった。
千葉。
なんで千葉。12時。
秒で終わらせても、ジュンの約束には間に合わない。
約束を守らないと、あいつらはすぐに拗ねる。こっちも信用が一番大切で、俺がどうしても断れない用事ができたって言っても信じない。俺が奴らを軽んじて惰眠を貪ってる、あるいは面倒で逃げたって決めつけるに違いない。
セリとオ・シフのことも、あいつらが何とかしようとして、全員血祭りなんてこともありうる。オ・シフだからな。
俺は絶望的な気持ちでネクタイを締め、ホワイトハウスを出た。
着信があって、俺は息をついて通話にした。
「なぁ、相談があるんだけど。時間、早められない?」
「いいけど、地面師から偽の権利書と引き換えに代金を受け取ってほしいの。あんたは赤羽の下っ端役。向こうも詐欺師。ちゃんと役割を果たせる自信は?」
「100パー」
「本当? 何分、早めてほしいの?」
「12時にこっちに戻りたい」
「それは難しいでしょ。でも、なる早で戻れるようにしてあげる。5分で駅に行ける?」
「特急券でも用意してくれてんの?」
「そう。超特急券」
アヤカはそう言って電話を切った。
なんか嫌な気がしたけど、5分で駅に行くには、考えてる暇はなかった。
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