地獄の入り口

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地獄の入り口

 目を開けるとそこは、黒々とした不揃いの岩石で埋め尽くされて草の一本すらも生えていない荒地だった。見渡した先にはまるでこの土地を遮断するように火山が聳え立ち、真っ赤な溶岩流がドクドクと溢れ出た先には幾つもの灼熱の池がゴボゴボと音を立てている。  なんだこれ?まるで地獄みてえだな。  さっきまで俺は、酒場で……服装もそのままだ。  ――ああ、そうか。 「俺、死んだのか」 「惜しいな、ちょっと違うかな」  ぽつりとひとりごちたはずの俺に、応える声がした。 「え……? っつか、あんた、どこから……」  これでも冒険者としてそれなりの場数は踏んできたはずの俺が、混乱していたとはいえ背後を取られるという不覚……いや、さっきも背後を取られた結果このザマだ。しかし先ほどの殺意とは違うその声はどこか懐かしいような、心の中にするりと溶け込んでくるような気さえするような。  なんて考えている間にもザッザッとゆっくり近づいてくる、その足音の方向を振り向くとソレは既に目の前に立って口角を上げていた。 「いらっしゃい」 「ぅわ……えっろ…………」  その姿が視界に入ると同時に、条件反射のように思わず声が出た。 「あ?」  ゆるやかに纏った布一枚がその褐色肌としなやかで無駄のない肉付きを際立たせ、少し釣り上がった切れ長の目に吸い込まれそうなほどの漆黒の瞳。少しカール掛かったふわりと長い亜麻色の髪は触り心地が良さそうでまさにド好みで。俺よりも頭ひとつ低い背丈で、ちょうど視線の先に見えるのは、獣耳……によく似たシルエットだがツノのような……なんだ、死神が俺を迎えに来たってか? 「そうか、死ぬ前にちょっとでも夢見とけってか」  この際なんだっていい、据え膳なら頂いてやる。その鋭利な爪先を向けられるより速く両手を掴んで距離を詰めると、褐色肌に映える金色の腕輪がカシャンと音を鳴らして揺れ る。 「あんたと最期を過ごせるなら、悪くない」 「ちょっ、なにすんだ……って、おまえ……まさか、レン?」 「え? ……ああ、死神ならなんでもお見通しってわけか」  俺の名前を呼ばれてハッとするが、地獄なら何でもありなら、そりゃあそうだよな。 「いや死神じゃねえし。はぁ……マジで何やってんだよ」 「なんでもいいや、すっげえ好みだし」 「バカ! おまえ……ああ、こいつ間違いなくレンだわ、はぁ、もうなんなんだよ」  いかにも面倒事に遭遇したかのような嫌そうな様子でなにかをブツブツと呟いているのだが、ピンと上向きに尖っていた耳はやや垂れて、欲目にも褐色の下でほんのり赤くなっているように見えて。 「うゎ……可愛ぃ……」 「黙ッ……! ……はぁ。ったく、二度と来んなって、約束しただろ!」 「はぁ、なんだかわかんねえけど可愛すぎ……って、え……?」  約束って、なんのことだ……?
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