何度でも(完)

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何度でも(完)

「ルー、会いたかった……」 「二度と来んなって、何度言えば……」  はぁ、余計なこと言って思い出させちまった。おれよりも頭ひとつでかくなったレンに、抱きしめられながらおれはため息をついていた。 「大体、やっと落ち着いて生きてんのかと思えば痴情の縺れで刺されたとか、何やってんだか。ああ、実行犯は二人組とはまた別で、女の子のストーカーってとこか」  あれだけ加護を与えて今まで生きてきたというのに結局はそんなことで死にかけるなんて、ヒトって脆いのな。 「はぁ……それは俺も想定外だったけど……元はといえば、ルーのせいだ」 「なんだそれ」 「俺、せっかく手に入れたと思ったルーに突き放されてさ。記憶は消えてるっつっても、好きになるタイプは結局ルーだし、欲しいものは捕まえなきゃって強迫観念がずっとあ ったんだって今ならわかる」 「そりゃあ……お前……」  確かにそう言われてしまえば否定はできないのかもしれないけれど、おれだってああすることが一番いいと思ったことは譲れない。 「いや、ごめん。ルーはそうするしかなかったのにな」 「…………」 「ルーはさ、ここから出られないんだろ」  抱きしめられる力が少し緩められ、おれの腕に嵌められた金の腕輪をレンの指がそっとなぞる。成長したのは図体だけではないらしい、本当に聡いやつ。 「それに、俺に生きろって言ったルーの気持ち、今ならわかる。俺が強くなれたのもルーのおかげだ」 「ああ……」 「今回も、帰れって言うんだろ?」 「ああ、そうだな」 「……だよな。わかった、帰って、生きる」  そうだ、そうするべきなのだ。だけど、ここまで物分かりよく言われてしまうと胸の辺りが少しきゅっとなる。 「はは、ルーが寂しそうな顔してくれるの、嬉しい」 「…………」 「ごめん、わかってる。ちゃんと帰るし、もう来ないって今度こそ約束する。だから……」  言葉は途切れ、代わりにふたたびぎゅっと抱きしめられる。 「……だから、なんだ……?」 「だから…………忘れたくないし、最後にルーと繋がりたい」  ……はぁ、……ほんと敵わねえな。返事の代わりに、恐る恐る降ってきた唇を受け入れ抱き寄せた。  まるで初めて会ったときのように。溺れそうなほどの深い口づけで腰が抜けそうになったおれを、今度はレンがひょいと抱え上げて慣れた足取りで拠点に運ばれ身体を覆う布を性急にほどかれる。 「ルー、きれいだ……」 「ぁんま、見んッ……」  そんな形だけの抵抗も唇で塞がれて、おれを向かい合わせに抱きかかえたままレンは岩場に腰掛ける。やがて奪い合うように絡ませていた舌をするりと引き抜き、おれの耳に緩く齧り付いて口の中で転がすようにクチュクチュと舐め上げる音がと頭の中に響いてゾクリとする。 「んっ…………」 「ルー、可愛い……」 「んぁっ…………」  嬉しそうな声色とともに首筋にじゅるりと舌が這っていき思わず声が漏れていく。 「気持ち、いいか?」 「ぁ……わかんねぇ……、わかんねぇけど、おまえにそうされると、なんかホッとする」 「ッ……クッソ、なんつー魔性だよ」 「え? ……あっ、やぁっ、んっっ…………」  苛立ったように胸の突起に齧り付き、舌で挟み込むように吸いつかれるとまたしてもあらぬ声が止まらず初めての感覚に頭がまるで追いつかない。 「るー、すげぇかあぃぃ……」 「……やぁっ、しゃべんなっ、……あっっ、あんっっ……」 「全部、ルーが全部欲しい」  いつのまにやら器用に敷かれた布の上に押し倒されて、背中のある部分にぎゅっと刺激が走る。 「ん……ぁあ…………」 「羽根の痕……ここは……痛むのか?」 「はぁ……痛くは、ない……けど、きゅっとする」 「そっか、気持ちいいか」 「は? 気持ち、いい? ああっ」  そのまま執拗に甘噛みされつつあちらこちらを撫で回しながら、そのいやらしい手つきは確実に下に向かう。やがてレン自身の先走りを纏った指が、腹立たしいほどの慣れた手つきで後ろにちゅぷりと入り込んでいく。それが気持ちいいのか、悪いのかはよくわからない。ただ、ヒトを模して造られ食事も排泄も必要としなかったおれの身体が、今、レンというひとりの男を受け入れるためにゆっくりと解されていくことに、不思議と安心感で満たされていくような―― 「ごめん、本当ならこんなのじゃなくてもっと優しくしたかったけど」 「はは、今更何言ってんだよ」 「あと、本当は後ろからのほうがルーにはいいと思うけど……ちゃんとルーを見たいから」  あれだけガツガツしてたのに、今更シュンとするなんて可笑しくて可愛くて。それに、本当におれを求めてるんだと実感してしまうと応えてやりたくなっちまうのがオヤゴコロ……いや、それはおれ自身の心だな。 「いいよ。何千年生きてると思ってんだ、そんな簡単に壊れねえから。お前ひとりぐらい、全部受けとめてやるからはやく来い」  何を今更驚いてるんだか。ああ、そんな顔も、もう待てないとばかりに張り詰めたレンの熱の塊すらも可愛く見えてくるなんて、おれも随分絆されちまったな。 「ルー……好きだ」 「ん、……ぁ、あぁ……っ!」  されるがままに両足をひょいとひっくり返されて、その熱い塊がおれのナカを圧迫していく。レンは真剣な顔をしてるのに、まさかおれがヒトと繋がる日がくるなんてな、なんて思うと可笑しくなってくる。 「ッ……なんでそんな余裕あんだよ」 「だって、んっ、レンと繋がっ……、うれし……から」 「はぁっ、なんでそういうこと、先に言う……」 「だって、あっ、そこっ、きもちっ……あっ……」  そうだ、こんなにも愛を注がれ身体を重ねることがこんなにも気持ちいいなんて。いつもレンは、おれに新しい感情を教えてくれる。そしてこの感情は、きっと―― 「レン、おれも好きだよ」 「…………!!」  目を見開いたレンが身震いした瞬間に、おれのナカで熱が弾けてじわりと温かいモノが拡がっていく。 「はは、可愛い。好きだよレン」 「ほんと魔性……はぁ……なんだよ。俺のほうが好きだよクソッ」 「ははっ、お前、もうでっかく……ああぁぁっ、そこ、やめっっ……」  そう言いながらレンが掴んでいるのは……おれの……排泄にすら使われていない、飾りみたいな陰茎だ。 「ルーのここも、気持ちいいって言ってるな」 「あっ、こんなの、知らなっ……」  まさかと思ったが、確かにレンに触られるのは気持ちいいし、どうやら本当に反応しているらしい。 「なあ……今までも誘われたことぐらいあるだろ?」 「そうだな……まあそういう奴は地獄に放り込んでやったがな」 「じゃあ、本当に俺が初めて?」 「はぁ? お前以外にこんなこと許すはずねえだろ?」 「……そっか。ルー、愛してる」 「ん? ああ……えっ? あっ、やめっ……ああっ」  急に嬉しそうな顔になったと思えば、おれの前を弄りながらナカを探るように突き上げられて何かに当たる。 「ん……ここか?」 「ひゃっ、なにっ……ああっ」 「はは、こっちもちゃんとあるんだな」 「はぁ……? なんだよそれ」 「ん、大丈夫。俺に任せて気持ちよくなって」  いや、その顔は絶対に大丈夫じゃな…… 「やっ、まって、ああっ、これ、へんっ……」 「俺に掴まって。その爪で、痕残してよ」 「はぁっ、ぁんっ…………」  電流を浴びているかのようなわけのわからない刺激でチカチカするし、勝手に涙がこぼれ出る。じゅぷりとナカに溢れる液体を潤滑剤に、さらに激しい抽挿が止まらなくて頭がおかしくなりそうで、無我夢中でぎゅっとレンの身体にしがみつく。 「うん、可愛い。一緒にイこうな」 「んっ、あっ……あっ、あああっっ……」 「ん、俺も……はぁ、はぁ……ぁ……」  お互いの熱をぶち撒け果ててもまだ足りず、ぐちゃぐちゃになって貪り合っているうちまさかのおれの体力が先に尽きた、らしかった。  気がついたときには布一枚を掛けられて、あれほどナカに注がれたはずのレンの一部分も一切残さず消えていて。ただ身体じゅうに散らされた鬱血痕だけが、その情事が確かに存在したことを静かに物語っていた。  レン、ありがとな。  あれだけおれと混ざり合ったからにはそう簡単には死なせやしない。もう、来るんじゃねえぞ――  ――なんて、思っていたはずなのに。 「ルー! また会えた!」 「は?」 「しかも聞いて! 今度はルーのことちゃんと覚えてた!」 「そっか。……で?」 「いやぁ、勇者に着いて魔王を倒して聖者だか賢者だかになれたら天界でちょっと役職貰えるらしくて? そしたら魔王に返り討ちにされてさ! 本当なら即死のところ、ルーの加護のおかげでまだ死んでないみたい! ははっ」  なんて笑いながら、当たり前のようにおれに抱きついて離さない。  大体、天界の役職だって? ちょっと、って言うけどおまえ、何千年かかると思ってんだよ。それで、そんなもん手に入れて、何する気だよ……ってまさか、な。  だけど、レンなら本当にやっちまうんだろうな、なんて思ってしまうのは欲目でもいいよな。 「ほんと、敵わねえな」  おまえ、今度こそ約束しただろうが、なんて言ってやりたいことはあるけれど。  今となってはそれも、いつか守ってくれたらそれでいい。悔しいけれど、おれだってまだ覚えていてくれたのが嬉しかったから。その背中に腕を回して確かに生きている体温を肌で感じながら、そのまま溶け合うように降ってくる唇を受け入れた。
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