死にたくない。幸せになりたい

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死にたくない。幸せになりたい

「んん~!!!」  そんなに長い人生を歩んできたわけではないけれど、そこそこの人生は歩んできたつもりだった。 「おい! もっときつく結んでおけ!」  体を縄で縛られるという経験。  こんな事態に遭遇することになるなんて、一体どういう人生を歩んできたら想像することができたかのか教えてほしい。 (暴れたり、歯向かったりしたら、相手の感情を逆撫でるだけ……)  数人の黒装束の男たちに囲まれているけれど、私の思考は冷静だった。  どうせ、あれでしょ?  婚約者が雇った劇団の人たちか何かで、時が経ったら婚約者が現れて私を助けてくれるって流れに決まっている。 「こいつ、本当にスフレイン家の人間か?」 「なんだかみすぼらしい恰好ですよね……」  私が令嬢といっても、それはあくまで立場的な話。  幼い頃に祖父母に引き取られた私は、それはそれは元気いっぱいに育ってきた。  多少の生活費をもらっていても、贅沢な生活とは縁遠い日々を生きている。 (それにしても……)  私の思考が冷静な理由は、これがシルヴィン……っていうか、もう2度と様付けで呼んであげない。 (えっと、今はそういう文句じゃなくて……)  人質()の存在を無視して、平気で情報を漏らす。作戦を明かす。  こんな誘拐犯、絶対にありえない。  間抜けな誘拐犯を目にしているせいか、私の頭は酷く冷静だった。 (どうしよっかな……)  このままシルヴィンの助けを待つしか、誘拐犯から逃げ出す手段はない。  魔法も使えない、武力で戦うこともできない私は、ただただ助けを待つことしかできない。 (自分の無力さが嫌になる……)  いつの時代も、そうだった。  今回の人生こそは、1人で生きていけるように生活力を鍛えてきたつもりだった。  けれど、屈強な男たちの前では何も役に立たないのだと気づかされる。
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