温州さん

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僕のベランダから温州さんの庭が見える。 今日もゴンタは温州さんが縁側から出てくるのを今か今かと待ち構えていて、雨戸をあけた瞬間には嬉しくて尻尾がちぎれて飛んでいくんじゃないかと思うくらい振っている。 さすがに僕が「ゴンタ!」と呼んでもあそこまでは尻尾を振ることはない。 「あっ、ジロウ君。おはよう!」くらいのお愛想程度に尻尾を振るくらいだ。 仕方がない。 飼い主とただの通りすがりの顔見知りの小学生に対する態度なんてそんなもんだろう。 僕は7歳にしては物分かりはいい方だ。 これからゴンタを手なずければいいんだから。 今日の帰りに給食に出るパンを持っていっておやつにあげよう。 日々の賄賂が物を言うのはどこの世界も同じだろう。 パパがママにご機嫌を取る時によく使う手だ。ママに通用するならゴンタもきっとイチコロに違いない。
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