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ここはNYのセントラルパークのそばにある素敵なアパートには程遠い雑居ビル。
ユノがメレンゲを入れたホットケーキを焼いてくれている。メープルシロップもテーブルに置いてあって、カノンはそれが焼き上がるのを待っている。
コーヒーはもう入れてあって、いい香りを漂わせている。
「完成」
ユノがほかほかのホットケーキを皿に積んで持ってくる。
バターとメープルシロップがとろけて、皿に垂れている。
「すっごいおいしそう」
カノンが言うと、ユノは料理を褒められたときに見せるかすかな笑みを浮かべる。
実際に食べると、口の中に幸福が溢れる感じがして、カノンは口元を押さえた。
「美味しい!」
ユノは自分でも少し食べる。
「子ども食堂、早く始めようよ。難波さんもいつからだって聞いてたし」
カノンが言うと、ユノは肩をすくめた。
「あの人は自分が食いたいだけだ」
「拓良の子たちも待ってるよ」
「そうだな」
ユノが珍しく、反発を返さなかった。今まではそれほど乗り気ではなかったのに。
「とりあえず、来週、テストで何人か呼んでやってみるってのでいいかな」
ユノが言い、カノンは目を丸くした。
「いい! それすごくいい!」
「俺も大人数分てのは作ったことないし、手伝いに来てくれる奴のことまで考えると、いきなりは難しいかなって」
「うん、いいよ。手探りでも少しずつやれば」
「だな」
ユノはそう言って、コーヒーを飲んだ。
「お願いがもう一つあって」
カノンが言うと、ユノは目を少し細めた。
「何だよ、また無茶言うんじゃねぇだろうな」
「無茶なら、ダメって言ってくれていい」
「ふん、何だよ」
ユノは警戒しながらもカノンを見た。
「あのね、リアさんのこと、話してくれない? もちろん話せる範囲で」
カノンが言うと、ユノは一拍置いて、それからうなずいた。
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