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四人部屋の病室に私はいる。
一人は診察に行って後の二つのベッドは空いている。
廊下でたまに人の声が聞こえるが今は静かだ。
テレビをつけずに単行本サイズの小説を読んでいるとすぐに一時間、二時間と時間が過ぎる。
それが同じ小説であっても同じ時間の流れ方をするのが不思議だ。
私の命はあと半年だそうだ。
たまに差し込むように来る激しい胸の痛みは薬で何とか抑えている。
身寄りのない私はこの病室で殆どの時間を過ごし、たまに外出許可をもらって自宅で荷物整理をしている。
それを繰り返して自宅は殆ど空っぽになった。
今は月に一度帰宅して掃除をする程度だ。
私が死んだら家がどうなるか考えても意味がない位にどうでも良くなった。
ふと夢で見る景色がある。
真っ白な空、モノクロの砂浜に打ち寄せる波、沖を通るタンカー。
そして自分の小さな手。
きっと子供の時に行った海水浴場の景色なのだろう。
特に強烈な思い出もなくただ父親と遊びに行っただけなのに不思議と何度も夢に出て来る。
この病室と同じ位に静かで心地いい風が流れる景色だ。
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