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年老いた男が診察から戻って来た。
その男とは親しくなく殆ど会話はしない。
男は斜め前のベッドに腰かけてテレビをつけてそのまま横になった。
テレビから下品な笑い声が流れてくるがそんなにうるさいと思わない。
男は気を遣っているのだろう。
そんな毎日を過ごしているが別に寂しいとは思わない。
強いて不満を言うなら病院食が薄味な位だ。
流行りのネットも見ない。
ゲームもしない。
手元にある数冊の小説を読んでたまに散歩して、やがて訪れる死の時まで穏やかに暮らせたらいい。
無理に悟った訳でもなく自然と心が望むように過ごしているといつの間にかこんな気分になった。
そろそろ陽が傾いてきた。
私はゆっくり起き上がってスリッパを履き、斜め前のベッドの男に軽く会釈して散歩に出かけた。
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