地獄の合コンの話

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地獄の合コンの話

 場末(ばすえ)の居酒屋・モツ野郎の座敷に男女六名が出揃い、(メンズ)幹事(かんじ)にして陽キャ代表の拝神(オガミ)くんは皆にこう促す。 「じゃあ、自己紹介してきましょ。僕は、拝神 裕清(ユウセイ)。経営学部で趣味(しゅみ)バスケ、アパレル系のバイトしてます」 「ここら、お洒落(シャレ)な店ってレアね。あっ次はアタシか、三枝(サエグサ) (ナギサ)。社会情報学部で、歌うのと海いくの好きぃ」  九十九町で唯一の女子大・朱雀(すざく)大学からの刺客一号(しかくいちごう)、女側幹事の渚は美人タイプだけど適度に(ユル)くて明るい。 「はいオレェ秋津(アキツ) 永人(ナガト)! 趣味はァ、お持ち帰りィ。送りオオカミ狙ってるんで、希望者いたら先着順ネ!」  バカのサムいウケ狙いのせいで渚は困っている。  我らが羅生(らしょう)大はタダでもアホ大学として名高いのに、頼むから今以上に女子の中でのランク下げないでくれ。  男も引く中、ロング茶髪の女子がクスッと笑う。 「おもれぇ(・・・・)な」  外見は良く言えば可愛い系、悪く言えばガキっぽい。髪もパーマ失敗したみたいで、毛先に行くほど(クセ)強い。 「うち、萌絵(モエ)だよ。名字(みょうじ)はね、アラ……」 「葛葉(クズハ)、いいます。下の名前、駒鳥(ロビン)……」  萌絵の自己紹介の途中で女子三人目が割り込む。  さっきから悪い意味で気になっていた陰キャであり、奴周りの空気はドブ水みたく(にご)っているように見えた。  姫カット(パッツン頭)やパンクロリータ風ドレスも痛々しい。  右が緑で左が紫色というオッドアイのカラコンには、奇妙な渦巻き(グルグル)模様が描かれて目の焦点(しょうてん)も合っていない。 「エヘー、終了でぃす」 「キハハ、(みじか)! ヒトの邪魔して、ブッ込んどいて!」  萌絵は笑い上戸(じょうご)みたいで、怒るどころか楽しそうだ。  雰囲気に()まれそうだが、おれも自己紹介しとこう。 「水屋(ミズヤ) 拳士(ケンシ)です。川釣り、あとキャンプも好きです」 「アウトドア系? イイね、楽しそうで(きた)えられそう」  おっ渚ちゃん好感触……じゃねぇ。  単に幹事ってことで……盛り上げてるだけだろ。  全員の自己紹介終了のタイミングで拝神が進行。 「じゃあ皆さん生チュー持って」 「うちのはコーラだけど?」 「お酒飲めずとも僕が酔わせてあげますよ!」 「キハハ」  ウケをとれる拝神が凄いのか?  萌絵の笑いのツボが浅いのか? 「さァて今夜は野郎はどうでもいいけど僕のお(ヨメ)さんになるために集まってくれた女性陣に感謝して、乾杯(カンパイ)!」 「おっぱーい(※バカ秋津による発言)」 「かんぱーい(※秋津を殺したいおれ)」 「かんぱーい(※失笑しちゃってる渚)」 「キハー、かんぱーい」 「エヘー、かんぱーい」  乾杯までが実はこの合コンのハイライトだった。 「じゃあ僕以外の男はお疲れっした」  一気にジョッキを()けた拝神がまた場を沸かす(※おれにウインク)。 「おうお疲れ」  とおれが帰るフリすると渚がズボンの裾を掴み、 「早いって〜」  と楽しげに首をブンブン。  ネタふってくれた拝神に感謝(あいつマジいいやつだよな)。 「嘘っすウソ」 「よかった〜」  渚カワイイ。  本気で言ってくれてりゃいいのに。 「茶色いワカメみてェ」  秋津に髪を触らせながら(・・・・・・)萌絵は胸を張っている。 「うち自慢の天パだよ」 「胸とケツも触りてェ」 「正直なのキライじゃないよ。うち、ビッチだし(・・・・・)」 「オ! やっべマジ最高じゃン萌絵、キミに決めタ!」  初手から距離感ゼロの秋津はどうかしてる。  だが堂々とビッチを自称する萌絵もなかなかだ。 「水屋さぁん」  ゲェッ、地雷女がおれに強襲(アタック)。 「えっと、葛葉さん?」 「ロビン、って呼んで」 「えぇ?」 「(たくま)しい、腕でぃすね」 「ジムも、通ってるし」 「殴って(・・・)、ほしい」  聞き間違いであってくれと切実に願う。  おれを見つめる駒鳥(ロビン)の瞳は恍惚(こうこつ)によって(とろ)けており、逃げたいくらいキモいのに無下(むげ)に扱うこともできない。  テーブルの空きジョッキこそチャンス。 「おれ追加とかオカワリ頼んどきますよ」  注文を聞き集めてから座敷の戸を引く。 「サーセ……」  戸の向こうは見渡す限り真っ黒な世界。  俺の声が反響せずに闇に吸われていく。 「何これ……」 「ゴ注文ヲドウゾ」  青白い顔の店員が眼前に出現。 「ハイボールとケロピスとホッピーとビールふたつで」 「ハイ喜ンデ」  なんか普通にオーダー通るわ。  どこもオカシクねーよハハハ。 「オマチドウ」  待ち時間ゼロで飲みモン来た。  謎空間にも店員にもみんな関心を示さない。 「王様ゲーム」  全員で割り(ばし)を引く。 「王様だーれだ?」 「うちだ。4番、来て」  萌絵に答えたのは秋津だ。 「4番オレェ」 「うちね、手コキ(・・・)得意なの。今ここで、シてほしい?」 「してほしイ」 「じゃあ、ほいっ」  萌絵の手は、視認不可能な速度で動く。  秋津の首が、コキッ(・・・)小気味(こきみ)いい音を立てて一回転。笑顔のままで、奴は仰向けに倒れてピクピク痙攣(けいれん)する。 「イッちゃった。男ってホント可愛いね」  ペロッと舌を出して微笑む萌絵が割り箸を返す。 「次の王様だーれだ?」  挙手(きょしゅ)したのは駒鳥(ロビン)で、おれは5番。 「5番のヒトはロビンを殴って」  おれは自棄(ヤケ)になって、駒鳥(ロビン)を押し倒す。 「オラッ」  遠慮なく顔面に拳をブチ込んでやると、 「もっと」  (よろこ)んで要求してきたので連打を見舞う。 「死ねっ死ねっキモいんだよお前!」 「殺してっ殺してっ水屋さぁんっ!」  みんなハシャいで大盛り上がりだ。  頼む、誰でもいい。この地獄、終わらせてくれ。
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