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良い子ちゃんの話
「ガス管、破裂したんスかね?」
「戦争の不発弾でも、ブッ飛んだに決まってらぁ」
昨日まで公園だった場所の大きなクレーターの前で、すれ違う工事現場の人たちの会話が耳に入ってきます。
あっ申し遅れちゃいましてスミマセン。
ワタクシ井戸野 良子と申しまして高校一年生です。くれぐれもヨシコとか読まないようにご留意ください。ただでさえ親の悪意を感じる古臭い名前だというのに、学校でも幼稚な悪意で嘲笑う輩が多くて嫌んなります。
嗚呼この世界は本当に悪意ばかり蔓延って困ります。どなたか悪意を殲滅して住み良く変えてくださいまし。
いけないイケナイまた頭の中で誰とも知れない架空の方々に語りかける恥ずかしいクセが出ちゃってますし、いっけん静かで平和な朝の登校タイムでもどんな危険が待ち受けているやらワカラナイので集中して進まねば。
などと思ってたら前方に怪しい殿方二名を発見です。
元・公園と歩道を仕切る立入禁止テープの歩道側で、珍奇な雰囲気を放ちながらクレーターを眺めて会話中。
「なかなかの暴れん坊将軍のようで御座るな」
「僕サンたちも呼び戻されちゃうわけだよね」
ゴザル口調は和装にポニーテールの中性的な青年で、もう片方はゴツい体にスーツを着て顎髭を蓄えた中年。
「てか聞いていい? 石丸クン」
「なんで御座ろう? 籠山どの」
「どうして急にサムライ属性になってるの?」
「くっコレには事情があるので御座るよ……」
「罰ゲーム? イジメとかなら僕サンに相談しなね?」
「いや自主的なんだけどやっぱ変で御座るかなぁ……」
ワタクシ少し立ち止まってスマホを見るフリしつつ、以上のやり取りを盗み聞きしましたがますます怪しい。怖いので目を合わせないようにして足早に通り過ぎる、これに限ると判断して移動速度を上げた時のことです。
思わずチラ見して背筋が粟立ちました。
美形さんの腰元にぶら下がってる日本刀らしきもの。それにビビッてワタクシは悲鳴を漏らして固まります。
「ひえっ法に触れし者」
「あいや待たれい女子高生どの、誤解でごじゃる」
美形さんは慌てふためいて何をするかと思えば、
「っぽく見えるけどコレ違くて、ホラよく見てっ」
と日本刀を目の前で引き抜くではありませんか!
「わきゃ〜変態コスプレ犯罪者さ〜ん!」
紙のようなモノが肌を撫でた瞬間ワタクシ全力逃走。
「お祓い棒でござるのにぃ」
「うん紛らわしい改造しちゃダメだと思うな石丸クン」
もう何を言われても聞く耳もてません。
息を切らして教室へ駆け込んだところ、
「わひっ」
ワタクシ箒に躓き転んで床に接吻しちゃいます。
「あっゴメン委員長〜狙ってないんよ〜」
机に座る下品なギャルがゲラゲラ下品に笑ってます。
「いえいえ……ワタクシの不注意なので……えへ」
んボケカスゥゥゥゥ嘘つけゼッタイ狙いやがったゾ。
「立てるぅ? ヨシコちゃ〜ん」
「ありがとうございまっ痛ぅっ」
クソギャルの手を握った瞬間、刺すような痛み。
自分の手を見ると点々と血が、湧き出ています。
「ありゃあ? またゴメ〜ン画鋲装備してたの忘れて」
「そっ……そりゃあガビョーンでございますねー……」
ワタクシの超イカすダジャレでクラス内に失笑の渦。
「今どきダジャレ〜委員超ウケるんですけど〜ゲヘヘ」
どうもアリガトよオメェのはクッソおもんねぇなぁ。
正義の怒りを沸々と胸の奥で煮えたぎらせていると、担任の先生サマが背後で欠伸していらっしゃいました。
「おう井戸野〜席つけや。ホームルーム始めっぞ」
陰湿イジメ現場を目の当たりにしてなおスルーとは、見上げた教育者ダマシイでごぜーますねい元ヤン野郎。
気づくとワタクシ以外の生徒は着席しています。
見て見ぬフリのクズ連中お利口スタンバイして偉い。
「オラ出席とんぞ〜アン? 夏樹は無断欠席なんか?」
いつもムッツリ顔の優等生の名前が出ます。
休みは珍しいけど居なくても別にいいよあんな根暗。
午前の授業の間ずっと頭がズキズキうずいてました。ワタクシ何されても怒らないしストレスのせいかしら。
でも自他ともに認める良い子ちゃんはヘコたれない。騒ぐほどでもない問題が学校生活に響くのは勘弁です。
なんとかお昼休みまで乗り越えて掃除タイムへ。
「あの……お掃除……」
「は? ひとりでやんなよ得意だろ」
うんこギャル逆らってんじゃねぇ。
悪意、悪意。存在しちゃいけない、悪意は悪い。
「でも……お当番……」
「死ね、良い子ちゃん」
堪忍袋の緒プッツン。
笑みを消したワタクシが睨みつけるとギャルは突然、
「れ……う……うわっ」
お腹を抱えて苦しみだしてウンコ漏らしやがります。
おしっこもスカートや靴下に染みてイスびちょ濡れ。
「ヤダ! なんで!?」
吐いたゲロが喉に詰まってゴミはバタンキュー。
「臭ェ汚ェ。ゴミは片付けねぇとな」
たまんない愉悦にワタクシ大興奮。
爆笑しながら少しずつ塵と化していきます。
えっ? 嘘よね?
ワタクシ、何か悪いことした?
消えるべきは、悪い子でしょ?
どうしてわたしが、やめてよア ァ
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