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どこにでもある平和の話
会社前の公共広場でチビJKはデカJKを追い回す。
「白玉〜、こりゃ糸目〜!」
「黒部ぇ、あとにしてぇー」
ガキがウルセェのは平和な証拠だが今は静かにしろ。ワイのツクリンくんがもう少しで仕上がりそうなんだ。
「友達見捨てて逃げたにゃ〜!」
「でもー、自分も危なかったし世界は非情だしー」
「てか早く小生を組織に紹介しろやですぞ〜」
「でも黒部ぇ、霊感だけのザコとか即行で死ぬよぉー」
ワイはタブレットをベンチに置く。
立ち上がって怒鳴り声をブチ放つ。
「ヨソで遊べ! 納期ギリなんだよコッチ!」
白黒コンビは素直に謝って去っていく。
すぐ謝罪できるって良い子たちだよな。
気を取り直して可愛い我が子の制作に戻る。
ツクリンくんは九十九町役場から制作を委託された、我が広告代理店発の正式マスコットになる予定の子だ。キリンのモチーフに町づくりというテーマを植え付け、さらに名産物である栗のイメージも加えてあるんだぜ。
しかし選考前の段階だからライバルがいる。
同期入社の幕之内によるクリリスちゃんって駄作だ。まっ納期にさえ間に合えばワイ負ける気しないけどな。
そして迎えた提出日。
ワイは社内の廊下で泣き喚く。
「ない! データも!」
デザイナーとしてプライドかけて心血注いだ力作が、実物の書類やバックアップも含めて失われていたのだ。
「パニクってどした?」
座り込むワイに幕之内は歩み寄る。
「いよいよバトルだね。クリリスちゃん負けないよ? アレなんつったっけ……おたくのアホ面キリンさ……」
「お前やったな?」
「はァん何ぐぁ?」
「とぼけるなワイのデータ消したんだろツクリンを! 実力じゃ勝てないからって汚い手ぇ使いやがってぇ!」
ワイが襟元を掴んでも幕之内は怯まず、
「証拠でもあんの? 単に管理が甘かったんじゃん? 変な言いがかりヤメテよね実力じゃ勝てないからって」
手を振り払って足取り軽く去っていく。
結局ワイはなんにもできず上司にこっぴどく怒られ、幕之内のクリリスは他の候補も押さえて採用となった。
日暮れの繁華街でワイはヤケ酒を飲み歩く。
町中で鳴り響くサイレンの音がやかましくてウザい。酔っ払って道をフラついてたら怪しい連中と出くわす。
まず車イスに包帯女を乗せて押し進むギャル風の娘。
「キハハ、楽しいね美子。うちのコト、思い出した?」
「ごめん、わかんないよ。お姉ちゃん、だれなのぉ?」
そのふたりを取り巻く男女の風体には共通点がない。うちひとりと肩をぶつけ合ってワイは盛大にスッ転ぶ。
「痛ぇなゴラ」
「ひえぇ怖い」
相手は高校生っぽい詰襟着た女顔。
女々しくキョドる様にワイはイラついて掴みかかる。
「先に謝れや」
「怖い怖いズビバゼン」
そこに人の良さそうなお婆ちゃんが通りかかり、
「ちょっとアナタやめたげな? 謝ってるでしょ」
とワイよりもガキの味方をするのでさらにイラつく。
「怖い怖い怖いっ……」
「ボウヤ病気? 凄い汗よ」
過剰に怯えるガキの額を、婆さんはハンカチで拭う。
「怖い怖い怖っ……なんでボクに優しくするの?」
「えっ?」
「善意が怖い」
「へあっ」
婆さんは驚き顔のままで宙を舞う。
いや正確には婆さんの上半身だけ、ちぎれて飛んだ。
肉と臓器と脂肪と背骨むき出しの下半身が膝を付き、遅れて噴き出す鮮血のシャワーがワイとガキを濡らす。
「ひいぃ死んだぁグロおえキモいぃ」
親切にしてくれた人の死体にドン引きしてるガキの、耳穴から別の生きモンの腕みたいなモノが生えている。脈打つ血管を有す真ピンクのグミとでも形容すべきか、特徴からどことなく脳ミソの一部って感じにも見えた。
「キハハー! おもれぇー! 貴月それ何スタンド?」
「わかんないけど脳ミソ出たよ萌絵さんボク死ぬの?」
たちまち騒ぐ通行人を掻き分けてポリス集合だ。
「エヘー、コンバンハ死にましょう」
派手なドレス姿の女が踏み出してお辞儀で迎えると、ポリスたちは急に拳銃を抜いて己の口にくわえて撃つ。
「そして、みんなみんなロビンの仲間になるんでぃす。死ぬのは、ステキ。今日は死ぬのに、もってこいな日」
自殺して倒れたうちのひとりはユラリと起き上がり、残りの銃弾すべて使って周囲の野次馬どもを撃ち殺す。
「ずりィ。オレェも遊ぶゥ」
耳と瞼と口の端に埋め込み式ピアスつけまくってる、薬でもやってそうな目つきの男がワイの肩に手を置く。
ワイは全身の感覚を失う。
急速に視界が上昇して雑居ビル上階の窓と同位置に。
窓に映るのは異様に首の長い化物。
キリン? ツクリン?
消えてない。ここにいた。
そっかワイは今、ツクリンなんだ。
半狂乱で逃げ惑う群衆の中に幕之内を発見。
憎い
死ね
のしかかって大勢のアリごとプチプチ押し潰す。
首を振り回してビルも飲み屋も破壊に巻き込む。
「秋津もスッゴ! 見なよ最高のショウだよ美子ッ!」
「やめてえぇっ! 声が聞こえる頭が割れちゃうっ!」
泣き叫ぶ包帯女と正反対にギャルは腹を抱えて笑う。
いや違う、アレはワイらの女王だ!
女王様が、血の雨の中で笑ってる!
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