子ブタのおノロケ話

1/1
前へ
/90ページ
次へ

子ブタのおノロケ話

 ワッチ(わたし)は路地裏の行き止まりに追い詰められた。  白衣と片眼鏡(モノクル)とミニハット装備のヤギ娘が笑う。 「末期の夜伽(ラスト・ダンス)」 「ここで必殺技(ラスダン)はナシっしょや〜!」  ワッチは叫んで降参(こうさん)白旗(シロハタ)ふりふ〜り!  ヤギ娘が召喚せしは、なまら(※とても)デカい柱時計。  振子(ふりこ)室の戸が開いて、六匹の骸骨(ガイコツ)ヤギさん登場だべ。 「悪魔のいけにえっ(バフォメッツ・ディナー)!」  骸骨(おばけ)の手がワッチの体アチコチ掴んできてギャ〜! あっヤメテお(ちち)までモミモミしないでエッチいや〜ん! 「ヌハハハ! ブタよ観念しやがれである!」  ヤギ娘の高笑いは耳に残りやすい。  おばけがワッチを暗い振子室の中へと引きずり込む。 「待てぇい!」  闇に響くは甲高い声。  そのお姉さん(・・・・・・)は握った短剣(ナイフ)で六匹のヤギおばけごと、閉鎖空間を切り開くとワッチを抱えて舞い上がってく。  ビルの間で狭く見えていた青空が視界を埋め尽くす。 「なして(※なんで)飛んでるの?」 「大丈夫かい? マドモアゼル」  陽光を弾くゴーグル越しにワッチのこと見下ろして、緑の防寒(フライト)ジャケットとパンツルックのイケ(ジョ)が微笑む。 「何奴(ナニヤツ)である!?」 「あなた様は!?」  ヤギ娘とワッチの問いに彼女が答える。 「オレはピーターパン! か弱き者の味方!」  凛々(りり)しい瞳と鮮やかな赤毛の短髪は網膜に焼きつく。 「アデュー☆」  ところ変わってダイナー(ゴハン屋さん)。  窓際の席でバーガーを頬張ってワッチ幸せさ〜。 「ピーターさん助けてくれてありがと〜」 「いいってことよ。でもよく食べるなぁ」  対面に座るイケ女は水しか頼んでない。 「オレはリリアン・ピーターソン。お前は?」 「ワッチ? フランシスカ・ハミルトンです」 「美しい響きだね。お嬢様みたいじゃない?」 「ハミ肉トン(・・・・・)かデブかブタとでも呼んでくだせぇ」 「なんで!? ぽっちゃり系なだけじゃないか!」 「学校じゃあ皆そう呼んで仲良くしてくれたべさ」  (ウチ)が破産して卒業まで通えなかったのは黙っとこう。 「オレがもっとカッコよくしてやる。フランシスカならパカ……パキータ……いやオリジナルでシスにしよう」  素敵な愛称をくれたリリアンさんは急に話を変える。 「シスみたいな子がテラーズ(・・・・)のひとりなんて残酷だな」 「あはぁワッチ弱くて、こっ()ずかしい」 「戦う理由は? って聞いちゃ悪いか?」 「いえ……殺されてて、大好きだったお(ニィ)を……狼に」  オオカミ。憎い人殺しの野獣(ケダモノ)。  そう口にするだけで全身の血がひゃっこく(※冷たく)なる。 「すまん……シス」 「なんも(※いいの)、なんも……生き残ればいいべさ。したっけ(※そしたら)、お兄はよみがえる(・・・・・)。刑務官やってて、なまら優しいの」 「可愛がってくれた?」 「うん、一緒に出かけたっけ()恋人みたいって言われて。本当に、そうだったらいいなって思って……ふぇ……」  ワッチは泣いた。  食べかけのバーガーまで涙で濡らしちゃう。 「惚気(のろけ)……ブタ……変っしょ?」  スマホが震える。  ワッチはリリアンに断りを入れて電話した。 「もしもし? レベッカ、よかったっしょ? やっぱ、はんかくさい。したっけ、マジけっぱる(※がんばる)したっけ(※バイバイ)ね」  ワッチが通話を終えて正面に向き直るとリリアンは、 「オレさ」  と触っていた自分のスマホを卓上に置いて切り出す。 「戦いは間違ってると思う」  真剣な眼差しが、胸を射抜く。 「テラーズの誰もが(ゆず)れない願いを抱えてるとはいえ、弱い子にとって状況は最初から不利で不平等なんだよ。魔法ツカイの言うことだって正直まだ信用できないし、オレは弱者が強者の(エサ)にされて傷つく姿を見たくない」 「……ワッチ、バカだから難しいけど……わかるよ? リリアンさん、なんだか正義のヒーローみたいだべさ」 「よせよ。そのマネ事なら他の子らにも続けてきたが」 「だけど、リリアンさんも(・・・・・・・)願いを叶えたいっしょや?」  真っ直ぐな瞳は、僅かに曇る。 「言うな(・・・)」 「はんかくさいね」 「それ、カナダ(なま)りなの?」 「あっ、ごめんネわかんない(※ごめんネはやや上がり口調)?」  真横の窓ガラスが粉々に吹っ飛ぶ。  ワッチとリリアンは既にテーブルの下に隠れている。 「追ってきた」 「ヤギ娘だべ」  窓を破って入ってきたのは炎を纏うヤギおばけ。  ソイツが客や店員も巻き込みながら厨房(ちゅうぼう)に突っ込み、爆発が巻き起こってランチ時の店内は炎の地獄と化す。 「ママぁ」  火だるまの子供は親に抱きついて一緒に燃える。 「許さん」  リリアンとワッチは窓枠を飛び越えて外に出た。 「ヌハハハ! ふたりとも覚悟しやがれである!」  駐車場で仁王(におう)立ちして待ってたヤギ娘(レベッカ)めがけて、 「行くぞシス」  とリリアンが走り出そうとして脳天を殴られる。  このワッチの手に召喚された分厚いレンガでね。 「どお〜偽善者? レンガの味はキモチぃっしょ〜?」 「流石(さすが)盟友(めいゆう)フランシスカよ見事に騙された(・・・・)のである」  倒れ伏したリリアンの血みどろ頭を踏みつけて進み、レベッカがニヤつきながらワッチの肩をポンッと叩く。 「「お前がなァ」」  ふたり(・・・)の声は重なり響く。  触れられた肩に火がつく。 「偽善も地道にやっとくもんだ」  リリアンは起き上がって笑う。 「ブタの丸焼きも釣れるしな☆」  そういうことか熱  ワッチが電話してる時に熱  チャットで連絡をとって熱  て か  熱 ゥ
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加