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子ブタのおノロケ話
ワッチは路地裏の行き止まりに追い詰められた。
白衣と片眼鏡とミニハット装備のヤギ娘が笑う。
「末期の夜伽」
「ここで必殺技はナシっしょや〜!」
ワッチは叫んで降参の白旗ふりふ〜り!
ヤギ娘が召喚せしは、なまらデカい柱時計。
振子室の戸が開いて、六匹の骸骨ヤギさん登場だべ。
「悪魔のいけにえっ!」
骸骨の手がワッチの体アチコチ掴んできてギャ〜! あっヤメテお乳までモミモミしないでエッチいや〜ん!
「ヌハハハ! ブタよ観念しやがれである!」
ヤギ娘の高笑いは耳に残りやすい。
おばけがワッチを暗い振子室の中へと引きずり込む。
「待てぇい!」
闇に響くは甲高い声。
そのお姉さんは握った短剣で六匹のヤギおばけごと、閉鎖空間を切り開くとワッチを抱えて舞い上がってく。
ビルの間で狭く見えていた青空が視界を埋め尽くす。
「なして飛んでるの?」
「大丈夫かい? マドモアゼル」
陽光を弾くゴーグル越しにワッチのこと見下ろして、緑の防寒ジャケットとパンツルックのイケ女が微笑む。
「何奴である!?」
「あなた様は!?」
ヤギ娘とワッチの問いに彼女が答える。
「オレはピーターパン! か弱き者の味方!」
凛々しい瞳と鮮やかな赤毛の短髪は網膜に焼きつく。
「アデュー☆」
ところ変わってダイナー。
窓際の席でバーガーを頬張ってワッチ幸せさ〜。
「ピーターさん助けてくれてありがと〜」
「いいってことよ。でもよく食べるなぁ」
対面に座るイケ女は水しか頼んでない。
「オレはリリアン・ピーターソン。お前は?」
「ワッチ? フランシスカ・ハミルトンです」
「美しい響きだね。お嬢様みたいじゃない?」
「ハミ肉トンかデブかブタとでも呼んでくだせぇ」
「なんで!? ぽっちゃり系なだけじゃないか!」
「学校じゃあ皆そう呼んで仲良くしてくれたべさ」
家が破産して卒業まで通えなかったのは黙っとこう。
「オレがもっとカッコよくしてやる。フランシスカならパカ……パキータ……いやオリジナルでシスにしよう」
素敵な愛称をくれたリリアンさんは急に話を変える。
「シスみたいな子がテラーズのひとりなんて残酷だな」
「あはぁワッチ弱くて、こっ恥ずかしい」
「戦う理由は? って聞いちゃ悪いか?」
「いえ……殺されてて、大好きだったお兄を……狼に」
オオカミ。憎い人殺しの野獣。
そう口にするだけで全身の血がひゃっこくなる。
「すまん……シス」
「なんも、なんも……生き残ればいいべさ。したっけ、お兄はよみがえる。刑務官やってて、なまら優しいの」
「可愛がってくれた?」
「うん、一緒に出かけたっけ恋人みたいって言われて。本当に、そうだったらいいなって思って……ふぇ……」
ワッチは泣いた。
食べかけのバーガーまで涙で濡らしちゃう。
「惚気……ブタ……変っしょ?」
スマホが震える。
ワッチはリリアンに断りを入れて電話した。
「もしもし? レベッカ、よかったっしょ? やっぱ、はんかくさい。したっけ、マジけっぱる。したっけね」
ワッチが通話を終えて正面に向き直るとリリアンは、
「オレさ」
と触っていた自分のスマホを卓上に置いて切り出す。
「戦いは間違ってると思う」
真剣な眼差しが、胸を射抜く。
「テラーズの誰もが譲れない願いを抱えてるとはいえ、弱い子にとって状況は最初から不利で不平等なんだよ。魔法ツカイの言うことだって正直まだ信用できないし、オレは弱者が強者の餌にされて傷つく姿を見たくない」
「……ワッチ、バカだから難しいけど……わかるよ? リリアンさん、なんだか正義のヒーローみたいだべさ」
「よせよ。そのマネ事なら他の子らにも続けてきたが」
「だけど、リリアンさんも願いを叶えたいっしょや?」
真っ直ぐな瞳は、僅かに曇る。
「言うな」
「はんかくさいね」
「それ、カナダ訛りなの?」
「あっ、ごめんネわかんない?」
真横の窓ガラスが粉々に吹っ飛ぶ。
ワッチとリリアンは既にテーブルの下に隠れている。
「追ってきた」
「ヤギ娘だべ」
窓を破って入ってきたのは炎を纏うヤギおばけ。
ソイツが客や店員も巻き込みながら厨房に突っ込み、爆発が巻き起こってランチ時の店内は炎の地獄と化す。
「ママぁ」
火だるまの子供は親に抱きついて一緒に燃える。
「許さん」
リリアンとワッチは窓枠を飛び越えて外に出た。
「ヌハハハ! ふたりとも覚悟しやがれである!」
駐車場で仁王立ちして待ってたヤギ娘めがけて、
「行くぞシス」
とリリアンが走り出そうとして脳天を殴られる。
このワッチの手に召喚された分厚いレンガでね。
「どお〜偽善者? レンガの味はキモチぃっしょ〜?」
「流石は盟友フランシスカよ見事に騙されたのである」
倒れ伏したリリアンの血みどろ頭を踏みつけて進み、レベッカがニヤつきながらワッチの肩をポンッと叩く。
「「お前がなァ」」
ふたりの声は重なり響く。
触れられた肩に火がつく。
「偽善も地道にやっとくもんだ」
リリアンは起き上がって笑う。
「ブタの丸焼きも釣れるしな☆」
そういうことか熱
ワッチが電話してる時に熱
チャットで連絡をとって熱
て か 熱 ゥ
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