お菓子な双子の眉ツバ話

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お菓子な双子の眉ツバ話

 暗闇の中で男児が女児に問う。 「ねぇグレース、女の子たちはナゼ戦うの?」 「それはね兄者(あにじゃ)けしかけた(・・・・・)魔法ツカイのせいだわよ」 「仲良くしてさ、みんな願いを叶えてもらえば?」 「無理だわ兄者、終わりまで殺し合うしかないのだわ」  女児がクスクス笑うが男児は悲しげに(うつむ)く。 「可哀想だね……そんなのってない」 「クソッここ……ドコなんだよぉ?」  何もない暗い部屋で男は壁を叩く。  傍らの女児が怯えて肩を震わせた。 「お兄ちゃあん、アタシ悪いことした?」 「ごめんグレタ、大丈夫だ怒ってなんかない」  男は焦って笑顔を作り、ごまかす。  ブン殴った壁の一部が、(もろ)くも砕け落ちるので驚く。 「なんだこりゃ? ビスケットじゃねぇか?」 「えっホントぉ? わァすごいスゴいよね?」  グレタは涙を引っ込め、欠片を拾うと口に放り込む。 「おいひぃ食べれるよ」 「変なもん口にするな」  男がグレタの手を打ち、おかしな菓子(かし)を弾き飛ばす。 「ごめんなしゃい怒らないれぇ」  今度こそ泣き出す女児を睨んで男は舌打ちするなり、 「オイさっきの変な奴(・・・・・・・)! いるんなら出てこい!」  と叫びながら部屋を破壊して廊下へ飛び出していく。 「誰のこと?」 「見てないのかよグレタ? 怪しい女か男がいたんだ」  奇妙な部屋で目覚める前にも男は不審者と遭遇した。キャンプ場でグレタを乗せて車を走らせている時にだ。 「ね〜お兄ちゃん? パパとママは〜?」 「先にコテージのほうに戻ってるってさ」 「ふぅん……お腹へった……バーベキュー楽しみ」 「まだ準備中らしいしメシは下の店で買っとこう」 「あっパパとママだ今スレ違っていったよ?」 「えっアレ違うぜ? 似てるだけで別のヒトだろ」  山道をくだる途中で何者かが進路上に出現した(・・・・)。  焦って急ブレーキをかける男だが車は進み続け、 「うわぁっっ!!」  全身に激しい振動を感じて気づけば部屋にいた。 「あの野郎が飛び出してきやがって」 「アタシ知らない。そんなヒト見てない」 「ワケわからんてか車どこいったんだ車」 「なんか聞こえる。誰か話してるみたい」  グレタは突然そう(つぶや)くと薄暗い廊下を走り出す。  再び闇の中。 「ねェ兄者、覚えてる? アタシにしたこと(・・・・)」 「えっとグ、グレースそれってなんのこと?」 「とっても、(ヒド)い行いだわ」 「ゴメンね、わからないよ」 「まァ酷い、酷いことして忘れるなんて酷いことだわ」 「待ってて、ボクいま思い出す」  頭を抱えて悩み出す男児にグレースはすぐさま(・・・・)、 「時間切れェ」  と抑揚のない声で答える。  一方、男とグレタは弾力のある床に驚いていた。 「マシュマロだ。これマシュマロだよぉ」 「グレタ遊ぶな。出口を探さんとマズい」 「どうして? もぐもぐもぐ〜……おいしいじゃない。お腹すいても困んないんだしさ……もう住んじゃお〜」 「おかしいだろ? どう考えても異常すぎる状況だぞ。変態がボクらを(さら)って閉じ込めて楽しんでんだきっと」 「えっ怖いねポリス呼ばなきゃ……でも壁は板チョコ。天井クラッカーだしマシュマロ……焼いて挟みたいな」 「壁を舐めるな! オイなんか変だぞ!」  マシュマロの床が発熱して溶け、ふたりの体は沈む。  三度(みたび)、暗闇の中。 「ではケーキを作っていきましょう」  グレースが三角巾とエプロンをつけ、調理を始める。 「スポンジ生地はハンドミキサーでしっかり泡立てて」 「もごごぉっ」 「スポンジ生地が暴れないように押さえましょうねェ」 「ぷはっパパママ助けてぇ」 「兄者、あの時のアタシもそう叫び続けていたのだわ」 「グレース、やめて苦しい」  兄者と呼んでいた男児をグレースは、調理していく。 「思い出せるかしらァ兄者ァ?」 「わからな……あばびぶるぁっ」 「当たり前でしょ? だってお前と兄者は別人だもん」 「えっえっ……うぼろえぶぉっ」  一方、男とグレタは下階へ落下して呻いていた。  ふたりの前に、夫婦と思しき男女のペアが立つ。  男は夫婦を見て瞬時にして青ざめ、 「動くな! 娘を(・・)殺すぞ!」  抱き寄せたグレタに拳銃を突きつける。 「助けてパパママ! この(・・)お兄ちゃん怖いよぉ!」  グレタが怯えても夫婦は無表情のまま歩き出す。 「動くなつってんだろ」  男は銃を夫婦に向けて、発砲した。  母親のほうの顔が砕け、キャンディの目玉が落ちる。 「あっキャンディ食べたい食べたい食べたァいっ」  腕の中で笑い、暴れるグレタを男は手放す。 「ザケんなもうイカれたガキなんかどうでも……」 「兄者ァ」  背後から呼ばれて、男が振り向く。  そこで微笑むのは、エプロン姿の女児。 「グレー、ス……」 「兄者の妹はアタシだけなのに他人に浮気するなんて」 「ウソだ、グレースなわけ……ない……」 「兄者のためにケーキも作ってあげたのよ()し上がれ」  お菓子の家に、男の悲鳴がこだまする。  外套(コート)を纏った、性別不明の人物が闇で独り言つ。 「ピースは揃い、グレースという物語は完成する」  男と女の声を、同じ喉から発して兄妹を眺める。 「そして役者も、ようやっと出揃ってくれました」  外套が風もなくはためく(・・・・)と、その姿は消えて失せた。
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