カッパ乙女の恥ずかし話

1/1
前へ
/90ページ
次へ

カッパ乙女の恥ずかし話

 平成11年という世紀末。  少年はノストラダムスの大予言など信じなかったが、祖父との田舎暮らしの影響で妖怪は存在すると信じた。  そして夏休み初日の川辺で実物にお目にかかる。 「河童(カッパ)ですコンニチハ」  その河童は(めす)らしく少年は目のやり場に困った。  雌と断定できた証拠、全裸を前にして落ち着かない。まだ幼い体つきなれど、胸も尻も局部(きょくぶ)もしっかり女だ。 「お相撲(すもう)しましょうよ」 「いや……あのう」 「敗者の尻子玉(シリコダマ)は抜く」 「おれ……釣りに」  断って立ち去ろうとする。  気づけば釣り道具を投げ捨てて構えていた。 「はっきよい」 「のこっとれ」  河童と抱き合うように衝突して少年は思う。  待てよ河童ちゃん裸だぞ?  まわし(・・・)もないのに、どこを掴んで組み合う? 「ひんっ」  河童が色っぽい声を出す。  まん丸い尻の肉を、左右とも掴まれていた。  手に伝わる柔らかさと滑らかさに少年はニヤけ、 「ぎえっ」  勝負に集中できなくて川辺に倒されてしまった。 「えっち」  と河童が赤面して走り去っていく。  頭に被っていたお(わん)を落っことして逃げる。 「抜いてかないのか尻子玉」  その夜、少年は精通(せいつう)した。  時は流れて平成末期。 「ダメだ()ちもしねぇ」  エロ動画を再生してるスマホを投げ捨てて男が嘆く。 「おれはもう河童でしか抜けない男だというのか」  ベッド上でゴロゴロ転げ回って頭を抱えて苦悩する。 「もう30だぞ童貞(どうてい)なんだぞ魔法使いになっちまう〜。あいつのせいだ河童女のせいで性癖ネジ曲がっちゃ〜」  童貞を捨てるチャンスならあった。  大学時代に初カノジョとホテルに行った時がラスト。 『河童のコスプレしてくれねぇかな用意してっからさ』 『え〜ヤです最悪キモい変態ドン引きマジ死んでぇ〜』  アホらしいお願いのせいで案の定、関係は自然消滅。 「こうしちゃいられん」  男は飛び起きて小学校時代からの友に電話をかける。 「堀川(ホリカワ)、心の友よ頼む」 「野沢(ノザワ)、夜中にやめろ。嫁が、起きちゃうだろが」 「エロくて都合のいいオンナ今すぐ紹介してくれ」 「あ〜ちょい待て」  ややあって、堀川は眠たげに語り出す。 「利根川(トネガワ) ネネ()、覚えてる?」 「えっと小学校の、か? でも顔すら記憶にねぇしさ、確かクラスも違ってて地味すぎて印象に残ってねぇわ」 「あいつ今オレらの地元で自然保護官(レンジャー)やってんの」 「待ってだんだん思い出してきてる」  野沢の頭の中で、少女の姿がボンヤリと浮かぶ。  顔部分はボヤけ、猫背気味で服装は(あか)抜けない。 「チビでオドオド。友達いなくてイジメられてて」 「そいつだよ野沢。アダ名が小ブスのネネ子だよ」 「でも言うほどブスだっけか?」 「いや素材は悪くないんだけど雰囲気が暗いせいでな。頼みゴト断れない性格だからヤらしてくれんじゃね?」 「え〜さすがにソレ失礼でしょ」 「なりふり構ってる余裕あんのか最終手段だってのに。昔から好きでしたとか言って迫ればワンチャンお休み」  投げやり気味に電話を切られてしまう。  かくして野沢はローカル線を乗り継いで故郷(こきょう)へ帰る。昔と比べてすぐ気づくほど緑が減っていて妙に寂しい。 「ガキの頃は楽しかったな」  感傷的な気分で自然保護区を訪れると、 「あ」  とんでもない美人が野沢の顔をチラと見て(うつむ)く。 「もしかして……利根川 ネネ子さん?」 「はい私ネネ……利根川ですけど何か?」  ヤらしてください、などと言えるわけない。 「おれ野沢 雅則(マサノリ)……同小(おなしょー)だけど覚えてる?」 「はい忘れません……あんな恥ずかしいこと」  ネネ子は眼鏡を外すと、おかっぱ頭にお椀を被った(・・・・・・)。 「ひょ?」  と野沢が奇声を発して後ずさって壁にぶつかる。 「河童ちゃん」  震えるほど驚愕しながら彼は無意識に勃起(ぼっき)していた。  いつかの川辺をふたりで歩く。 「ああいう(・・・・)罰ゲームだったのよ」 「てかイジメだよね、あんなの」 「全裸で河童で相撲、でしょ。笑いに来たのね、私を」 「違うッ! おれは、ずぅっと会いたかったんだッ!」  野沢は勢いで叫び、ネネ子にすべて打ち明ける。 「あのあと初めてオナって初めて射精したよおれッ! 忘れられなくてキミの思い出で何度もシコってたッ!」 「ごめん正直キモチ悪……いいえ私には言えない」 「言ってんじゃん」 「ごめんなさいね」  ネネ子が微笑む。  野沢は、ときめいた。 「ネネ子、好きだ」  嘘でも、でまかせでもない心をこぼす。 「ありが、とう。でも……結婚、できないかもね」  野沢が理由を尋ねる前にネネ子は、 「だって私も変態女なんだもん……」  と立ち止まって衣服を脱ぎ始めた。 「あなたも告白したし私もお返しに」 「ちょっいきなり何してんのさ……」  慌てふためく野沢の胸に裸のネネ子が飛び込む。 「あれから興奮できないの……外でしか……」  男と女は思い出の川辺で抱き合う。  そしてめちゃくちゃセックスした。  大自然の中で繰り広げられる獣のようなまぐわい(・・・・)を、野生の河童女たちが水面から顔を出して見守っていた。  河童は水の綺麗な土地でしか生息できない。  人類が環境破壊を続ければ絶滅してしまう。  しかし地球の自然を愛して守るのもまた人類なのだ。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加