52人が本棚に入れています
本棚に追加
美女と野獣とアクマの話
「来て……アナタ」
美女は振り向き、虚ろな目でコチラを見る。
地響きとともに、奴の足元を含む地面一帯は裂けた。
コンクリを突き破って現れしは巨人である。
全身が黒き鋼の機械群で構成されし半人半獣の異様。
「敵を……殺して」
その手に乗せた美女が命ずると黒鉄の巨人獣は吼え、振動した大気は急激な温度の上昇を伴ってプラズマ化。
無数の雷槌が枝分かれしてアチコチに降り注ぐ。
弾け散るエネルギーが夜のビル街に破壊の嵐を呼ぶ。
「あひ〜ヤバすぎ無理ムリ無理ムリ勝てっこないし〜」
シンディとかいう軟弱ギャルは早々に戦意喪失した。
逃げ惑うザコがいる一方で大物なのか呑気者なのか、ソーニャ様は糸車の前のイスに座って微動だにしない。
「一時休戦、ね。みんなでチカラを合わせる、の」
「実にナイスな提案なのですソーニャお姉ちゃん」
オメデタイ戯言に同意して鼻息を荒くしているのが、スノウとか名乗った年端もいかないチビガキ白雪姫だ。
「末期の夜伽を使うのですシンディお姉ちゃん!」
「でもアレやるとみんな危ないよスノウちゃん!」
おバカ姫様トリオに付き合ってられん。
せめてオトリの役に立ちやがれである。
「あれぇレベッカ博士? どこ行っちゃったのです?」
ビル間を屋上づたいに跳躍で移動していく。
我は誰だ? 誰だダレだ?
我はレベッカ・メンデスちゃん13歳。
悪魔のチカラ身につけた狂気の天才ガール。
知性と策略こそゲームを制するというモットーゆえ、女ピーターパンと組んでいた時期もあるが奴はヤバい。何せ真面目な善人のフリしたトンデモない変態であり、時おり怪しい目線で視姦してきやがるので我は逃げた。
お次はアリスもどきに取り入ろうとするも、
『僕と仲良くしたいなら隠し芸でもやりなよ』
『チョーク食べると声が変わりまーすである』
とかやらされて失笑されて恥かき損である。
さっきのトリオも論外だし今度どうしよう。
「Woo-hoo」
低い声が聞こえ、我の脳内に警報音が鳴り響く。
前方の建物屋上で満月を背負う小さなシルエットは、脱力した棒立ちのようでいて一分の隙も感じさせない。
「よお、晩飯」
奴は真っ赤なケープとフレアスカートを細身に纏い、フードの内側から栗色の三つ編みお下げ二本を垂らす。鋭い三白眼の中心部から金色の瞳が剣呑な輝きを放ち、ギザギザの歯を剥き出す口の端が裂けんばかりに笑う。
「何奴?」
「私? 赤ずきん……ブランカ」
「我は! レベッカ!」
「覚える気ないよ……悪いけど」
「そいつァ、どういう意味である?」
「あんたは、肉に名前つけて食べるの?」
オーケー、オーケー。
安い挑発、かなりムカつくけど乗る我じゃない。
「キミ何歳? ブランカちゃん」
「11だよ? いけにえちゃん」
ダァッム、年下かよ!
メスガキ、クソ生意気なマ○コ焼き切って殺す!
「カワイイである……友達なろ」
「トモダチなんか……いらない」
ブランカの姿が瞬時に消えた。
かと思えば分厚い両刃の伐採斧が縦回転しつつ迫り、それを横っ飛びでかわす我の背後にブランカは現れる。
さらには、まだ滞空中の斧の柄を掴んで真横に薙ぐ。
「うおっ」
さすがの我も驚き隠せず唸りながらバックステップ。初手での二段構えの奇襲を辛くも避けて冷や汗を拭う。
自分で投げた武器に追いつく?
すかさずキャッチ&アタック? なんてスピードだ!
「怪物めレッド・キャップか貴様!」
「帽子じゃなくてレッド・フードね」
ブランカ、またも高速疾走で我の真正面につく!
目鼻の先、キスできそうな近距離からの頭突き!
モロに受けて、我はよろめく。
衝撃と激痛に、呻いてから気づく。
視界の左半分、完全な暗闇だ。
片眼鏡が砕け、目に刺さっている畜生!
次の瞬間、縦一閃された刃は我の右腕を斬り落とす!
「ぐぎやぁ我の腕ぇっ!!」
叫びながら左手でブランカの右手首を掴む。
「燃えろ」
法則制御の異能による自然発火現象を発動。
ブランカはたちまち炎に包まれていく!
燃え移るのを阻止したいらしいケープを脱ぎ捨てて、オオカミの耳を顕にして向かってきたがヤらせるかよ!
「末期の夜伽ゥ! 悪魔のいけにえっ!」
我は白衣を踊らせて柱時計を召喚した。
振子室を開けて飛び出す骸骨ヤギ六匹が敵を捕らえ、細い四肢を引き千切って噴き出す鮮血に染まっていく。
ケモ耳も尻尾もハラワタもブッコ抜く。
「オオカミはァ! ヤギに負けて死ねよやァッ!」
我自ら斧を奪って素っ首を斬り飛ばす。
ポーンと直上に飛んで落ちてきたブランカの生首は、
「がふるるぅっっ!!」
我の喉に喰らいつく。
的確に、頸動脈を噛み千切られた。
出血が、我の意識を濁らせて下僕どもを消滅させる。
バラバラになったはずのブランカの肉体は連結して、元どおりになると斧を拾い上げて我の顔面に叩き込む。
目ン玉 こぼれて
脳ミソ もれてく
なんで しなない
こいつ あくまだ
「 めん。 しかないんだ、私 ぬ方法」
きこえ ない
なにも みえ
こわい やだ
しぬの いや
わたち まだ いきて たいの
げぇむ かつ そんで ゆめを
れ?
ゆめ
って
なん
らっ
け?
最初のコメントを投稿しよう!