美女と野獣とアクマの話

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美女と野獣とアクマの話

「来て……アナタ(・・・)」  美女は振り向き、虚ろな目でコチラを見る。  地響きとともに、奴の足元を含む地面一帯は裂けた。  コンクリを突き破って現れしは巨人である。  全身が黒き(はがね)機械群(マシーン)で構成されし半人半獣の異様。 「敵を……殺して」  その手に乗せた美女が命ずると黒鉄(くろがね)の巨人獣は()え、振動した大気は急激な温度の上昇を(ともな)ってプラズマ化。  無数の雷槌(イカヅチ)が枝分かれしてアチコチに降り注ぐ。  弾け散るエネルギーが夜のビル街に破壊の嵐を呼ぶ。 「あひ〜ヤバすぎ無理ムリ無理ムリ勝てっこないし〜」  シンディとかいう軟弱ギャル(シンデレラ姫)は早々に戦意喪失した。  逃げ惑うザコがいる一方で大物なのか呑気(ノンキ)者なのか、ソーニャ(眠り姫)様は糸車の前のイスに座って微動だにしない。 「一時休戦、ね。みんなでチカラを合わせる、の」 「実にナイスな提案なのですソーニャお姉ちゃん」  オメデタイ戯言(ざれごと)に同意して鼻息を荒くしているのが、スノウとか名乗った年端(としは)もいかないチビガキ白雪姫だ。 「末期の夜伽(ラスト・ダンス)を使うのですシンディお姉ちゃん!」 「でもアレやると(・・・・・)みんな危ないよスノウちゃん!」  おバカ姫様トリオに付き合ってられん。  せめてオトリの役に立ちやがれである。 「あれぇレベッカ博士(ハカセ)? どこ行っちゃったのです?」  ビル間を屋上づたいに跳躍(ジャンプ)で移動していく。  我は誰だ? 誰だダレだ?  我はレベッカ・メンデスちゃん13歳。  悪魔のチカラ身につけた(七匹の子ヤギのテイル宿す)狂気の天才ガール。  知性と策略こそゲーム(バトロワ)を制するというモットーゆえ、女ピーターパン(リリアン・ピーターソン)と組んでいた時期もあるが奴はヤバい。何せ真面目な善人のフリしたトンデモない変態であり、時おり怪しい目線で視姦(しかん)してきやがるので我は逃げた。  お次はアリスもどき(キャロルとやら)に取り入ろうとするも、 『僕と仲良くしたいなら隠し芸でもやりなよ』 『チョーク食べると声が変わりまーすである』  とかやらされて失笑されて恥かき損である。  さっきのトリオも論外だし今度どうしよう。 「Woo-hoo(ウー・フー)」  低い声が聞こえ、我の脳内に警報音(アラート)が鳴り響く。  前方の建物屋上で満月を背負う小さなシルエットは、脱力した棒立ちのようでいて一分(いちぶ)(スキ)も感じさせない。 「よお、晩飯(ヤギ)」  奴は真っ赤なケープとフレアスカートを細身に纏い、フードの内側から栗色の三つ編みお下げ二本を垂らす。鋭い三白眼の中心部から金色の瞳が剣呑(けんのん)な輝きを放ち、ギザギザの歯を剥き出す口の端が裂けんばかりに笑う。 「何奴?」 「私? 赤ずきん……ブランカ」 「我は! レベッカ!」 「覚える気ないよ……悪いけど」 「そいつァ、どういう意味である?」 「あんたは、肉に名前つけて(・・・・・・・)食べるの?」 34ae98d2-7b69-4d79-85f8-3fdcf291336f  オーケー、オーケー。  安い挑発、かなりムカつくけど乗る我じゃない。 「キミ何歳(いくつ)? ブランカちゃん」 「11だよ? いけにえちゃん」  ダァッム(Damn)、年下かよ!  メスガキ、クソ生意気なマ○コ焼き切って殺す! 「カワイイである……友達なろ」 「トモダチなんか……いらない」  ブランカの姿が瞬時に消えた。  かと思えば分厚い両刃の伐採斧(フェリング・アックス)が縦回転しつつ迫り、それを横っ飛びでかわす我の背後にブランカは現れる。  さらには、まだ滞空中の斧の柄を掴んで真横に薙ぐ。 「うおっ」  さすがの我も驚き隠せず唸りながらバックステップ。初手での二段構えの奇襲を(から)くも避けて冷や汗を拭う。  自分で投げた武器に追いつく(・・・・)?  すかさずキャッチ&アタック? なんてスピードだ! 「怪物(カイブツ)レッド・キャップ(※英国伝承の極めて危険な妖精)か貴様!」 「帽子(キャップ)じゃなくてレッド・フードね」  ブランカ、またも高速疾走(ダッシュ)で我の真正面につく!  目鼻の先、キスできそうな近距離からの頭突き!  モロに受けて、我はよろめく。  衝撃と激痛に、呻いてから気づく。  視界の左半分、完全な暗闇だ。  片眼鏡(モノクル)が砕け、目に刺さっている畜生!  次の瞬間、縦一閃された(オノ)は我の右腕を斬り落とす! 「ぐぎやぁ我の腕ぇっ!!」  叫びながら左手でブランカの右手首を掴む。 「燃えろ」  法則制御の異能(テイル)による自然発火現象を発動。  ブランカはたちまち炎に包まれていく!  燃え移るのを阻止したいらしいケープを脱ぎ捨てて、オオカミの耳を(あらわ)にして向かってきたがヤらせるかよ! 「末期の夜伽(ラスト・ダンス)ゥ! 悪魔のいけにえっ(バフォメッツ・ディナー)!」  我は白衣を踊らせて柱時計を召喚した。  振子室を開けて飛び出す骸骨(ゴースト)ヤギ六匹が敵を捕らえ、細い四肢(しし)を引き千切って噴き出す鮮血に染まっていく。  ケモ耳も尻尾(シッポ)もハラワタもブッコ抜く。 「オオカミはァ! ヤギに負けて死ねよやァッ!」  我自ら斧を奪って素っ首を斬り飛ばす。  ポーンと直上に飛んで落ちてきたブランカの生首は、 「がふるるぅっっ!!」  我の喉に喰らいつく(・・・・・)。  的確に、(けい)動脈を噛み千切られた。  出血が、我の意識を濁らせて下僕(ゴースト)どもを消滅させる。  バラバラになったはずのブランカの肉体は連結して、元どおりになると斧を拾い上げて我の顔面に叩き込む。  目ン玉 こぼれて  脳ミソ もれてく  なんで しなない  こいつ あくま(・・・)だ 「 めん。  しかないんだ、私  ぬ方法」  きこえ ない  なにも みえ  こわい やだ  しぬの いや  わたち まだ いきて たいの  げぇむ かつ そんで ゆめを  れ?      ゆめ          って              なん                  らっ                      け?
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