色々とおこる話

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色々とおこる話

「ジョセフィーヌ」  と、四姉妹の長女はお屋敷の部屋で次女を呼びます。 「お姉様、死界(コッチ)じゃ名前で呼ばない約束」 「あらぁ、いっけなぁい! 今のぉ、なっしぃ!」 「遅いし、今ごろ何処(どこ)ぞで天変地異(てんぺんちい)が起きてるわ」 「あう〜、どおしましょ〜」  タレ目のお姉様は瞳の中に星を飛ばして大慌て。  対するツリ目の妹が髪を払ってタメ息つきます。 「家長が起こす面倒事をどうにかするのは誰かしら?」 「すぐ行くぅ。エミリー……ちょっと転移(ワープ)頼めるぅ?」 「また名前を。そもそも……あの子は旅行中だし」 「わたしってなんてダメダメなお姉ちゃんなのぅ」  出ていこうとする長女の肩を次女はポンと叩きます。 「お姉様がわざわざ動いて収束させても良くなくてよ。ご自身の不名誉を宣伝して歩き回るようなものだもん」 「ごめぇん苦労ばっかりかけて」 「いつものことよ気にしないで。朝までに戻るわ」 「はぁいお願いしますぅ妹様ぁ。愛してるちゅっ」  長女のハグとキスを次女が手のひらでガードします。 「お姉様やめて。子供じゃないの私」 「そおでしたぁ。立派な淑女よねぇ」  ちょっと寂しそうに(うつむ)く長女の頬に次女がすかさず、 「ちゅっ」  とキス。  落ち込んでいた長女はすぐ満面の笑みを浮かべます。 「そおだお姉ちゃんアップルパイ焼いて待っとくねぇ」 「いいからお願いだからソレだけはやめてちょうだい」  というわけで次女はお屋敷を出ました。  しばらく優雅にテクテクと歩いてたら、 「フンガー! オデの眠りを(さまた)げるのは誰だー!」  と遠くの鬼山が怒って噴火しています。 「淑女は走らないものよ。急がせないでちょうだいね。ああいうわかりやすいやつほど助かるけれど厄介だわ」  次女は焦ることなくひたすらテクテク。  すると追いかけてくる存在があります。 「わんわおん」 「ブチちゃん」  そう、亡き帽子くんの相方のブチ公でした。  現在、彼は四姉妹に大切に飼われています。 「どうしたの? ついてこなくていいのよ?」  しゃがみ込んだ次女がナメ回しのジャレつきを受け、彼を撫でながらその首に下げられていた荷物を見ます。 「これって……まさか……」  (いぶか)しんで唐草(からくさ)模様の風呂敷を(ほど)くと悪い予感どおり、荷物の正体とはメッセージカード付きのアップルパイ。 『妹スキスキお姉ちゃんの愛情おべんと食べてネ♡♡』  と記された長女のイラスト入りカードを手に次女が、 「いらない……つったじゃん……お姉様」  滅多にお目にかかれないガチ(へこ)み顔でうなだれます。 「もうしょうがないわ」  しょうがないので風呂敷しょって荒野を進むと、 「ギーギー! カミナリ落とすぞコンコンチキ!」  サンダーバードが動物を感電させまくってます。 「不愉快だわ」  次女が睨みつけてもサンダーバードは道を譲らずに、あろうことか貴族に向かって電流攻撃を放ってきます。 「退()かないなら死になさい」  枯れ木に隠れた次女はムカつく鳥に手のひらを向け、肉体操作の異能で敵の心臓を停止させようとしました。  しかし直後にブチ公の悲しげな眼差しの光に打たれ、 「そうね……ケンカ腰なの悪いクセよね……」  と反省(はんせい)してパイの切れ端を鳥の口内に投げ入れます。 「もげピーッ」  ソイツはひと鳴きすると青くなって倒れました。 「アッシとしたことが次女様とわからずサーセン」 「精霊ともあろうものがペコペコして情けないわ」 「おわびにお供させてくだせぇ」 「でしたらご自由にどうぞだわ」  こうしてお供が増えた次女はまた進み出します。  険しい岩山を登っていくと大声が響き渡ります。 「ウシャア! オレっちはハヌマーンだ強いぞ!」  てっぺんにいる(サル)はたくさんの太い腕で岩石を持ち、次女たちの頭上へと投げ落としまくってくるのでした。  パワーを誇示して高笑いしてるので大口が全開です。 「あ」  案の定、パイの切れ端を放り込まれて苦しみますよ。 「次女様、命だけはお助け」 「ならば、ついてきなさい」  かくて、ハヌマーンも仲間に加わって先を急ぎます。  一行はついにラスボスのもとへ辿り着きました。 「そんな小さな胸でよく来たとホメてやる貧乳ちゃん」  と鬼山が山のくせに凄く失礼な台詞を吐きます。 「あなたは随分と立派だけど今日で真っ平らになるわ」  おすまし顔を崩さぬ次女による先制攻撃はもちろん、パイを千切って鬼山の口っぽく見える部分にポイポイ。  鬼山が口をモゴモゴさせて「ウグオッ」と唸るなり、 「うっま」  などとイキナリ上機嫌になって左右に揺れ踊ります。 「作ったのがお嬢ちゃんならイイお嫁さんになるねぇ」 「めるしぃー(※ありがとう)……」 「いやぁスマンスマン暴れるのやめるんでもっとくれ」 「どうぞ遠慮なく……」  次女は複雑な心境で仲間と一緒にパイを食べました。 「わんわんお(僕はドッグフードでいいや)」 「アッシもこの味クセになってきてますぜアネゴ」 「オレっちにも分けてくれよぉアネゴのアーンで」 「お姉様の味って深すぎて私じゃ理解できないわ」  翌朝、ブチちゃん以外みんなお腹を壊しました。  特に、鬼山なんか死火山と化しちゃったみたいです。
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