光る穴

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 とくん・・・とくん・・・。ここは・・・どこだろう?どのくらい時間がたったのか・・・。俺、一人?・・・っぽいな。それにしても静かだなあ。心地良い。身体が随分軽い。あんなに重かった腰痛も膝のギシギシもいつの間にか消えてるし。 絶対の安心。無重力って、こんな感じかな。この気分、誰かと共有したいんだけど、誰もいないんだよ。そういえば、俺、随分なんも食ってなくね?でもお腹が空く感覚もないし、そもそも食べ物がない。  昔、トムラウシで霧が濃くなってアイツらと結局はぐれた。山の上で一人、カサカサと石が降る音にビクビクしてた。虚勢を張って、威勢のいいことばかり言ってきた。色んな山に登った。俺は怖がりだから、そうじゃないと越えられなかった。そんな俺をわかった上で、彼女はいつも俺が戻ると「おかえりなさい」と迎えてくれた。ああ、あのデカいおっぱいに顔を埋めたい。何かを沢山してきたような、何もしてこなかったような。   ここには四季がない。暑くも寒くもない。雨も降らず、日照りもない。ぼんやりと赤い川が見える。太い川。細い川。大地のリズムと一緒に脈打つように流れている。  たまに山彦のような声が、かすかに、遠くから聞こえてくる。 「お〜い。何してるの〜?」  返事してみる。 「生きてるよ」 「ごきげんいかがですか〜?」  手を伸ばすと、天にとどく。 「うわ。すごいすごい。ここ!ここ!」  男は嬉しそうだ。  本当は女の声の方が聞きたいけど、女の声は大地と共鳴して、もう少しこもったような、低い遠雷のようで、言葉としては聞き取りづらい。    くるくる宇宙ゴマみたいに回って楽しかったんだけど、いよいよここも手狭になってきた。 「しゃっくりしてるの?」  女の声が前よりはっきり聞こえるようになってきた。さっきからしゃっくりが止まらない。小学校の頃、しゃっくりを百回すると死ぬって言われて、数えながら本気で迫り来る恐怖を感じた。クラスに転校してきた静かめの女の子が、横隔膜の痙攣で肩を引くつかせる俺を見て、おまじないを教えてくれた。 「しゃっくりがえもん、橋の下で水を飲むって言いながら、箸をコップの上においたまま水を一気に飲み干したらいいよ」 「そんなの効くわけねーよ」  と言いつつ、慌てて給食室にかけ込んで箸を借り、一人、一刻を争う気持ちで清掃箱の中に隠れ呪文を唱えた。 「ひゃっくりがえもん、橋の下で、水を飲む」  ・・・あれ?効かないじゃん。あ、しゃっくり?あの子がいた所では「しゃっくり」って言うのか? 「しゃっくりがえもん、橋の下で水を飲む!」  ・・・と・・・まった?止まったー!  命を救ってくれたその子を好きになったけど、その子はまた、転校しちゃった。    暇だなあ。 「暇がってる暇があったら今こそ、計画」  え?誰? 「私は、万物の光の存在であーる」  え、なんかすごいの来た。なんかぼんやり光ってる。いや、後光差しちゃってるし。ありがたや、ありがたや。 「十月程前にあったでしょう」  光の存在は言った。 「いや、ちょっと記憶が・・・」 「まあいい。何がしたい?」 「え?何がしたいって・・・」 「ここから出たら何がしたい?」 「え?ここ、出口とかあるんすか?」 「出口は次の満月に開かれーる」 「次の満月っていつっすか?」 「地球が十回自転後」  あ、また思い出した。小学校の頃、クラスに女ボスみたいなのがいて、いつも揚げ足とってくるの。学級会とかで話し合いになると、 「そんな事!誰がいつ、何時何分何秒、地球が何回回った時に言ったんですかああ?」  と、鼻を膨らませながら、歌舞伎の見え切りみたいに目をグルグル回して言ってくる奴。今思えば、ネタキャラで、結構笑わせてもらったかも。   話は逸れた。とりあえず計画を立てろと言うことで。 「何がしたいかっていったら・・・、もう山はいっぱい行ったし、今度は海に行きたいかな」 「海で何をするのだ」 「うーん。ダイビングとか?いや、サーフィンかな?風と波に乗りたいです」 「やはり、アウトドアか」 「身体動かすのがいいっすね。身体の感覚で何かするのが」 「勉強は、好かんのか?」 「動きながらなら学べます。じっと机に座ってるのはちょっと」 「そうか。音楽というオプションも今回出てるが」 「あー、ちょっと考えたんですよ。好きなバンドが弦バスをバチバチ鳴らしてるのみて、これだ!って思ったんですけど。どっちかって言われたら、もうちょっと身体で地球丸っと感じる!みたいのがいいっす」 「なるほど。じゃあ、そういう同士と会えるタイミングはお膳立てしておく」  光の存在とやらは、なかなかフレンドリーだ。 「では、今回はサーフィンから大切な事を学ぶ事。波に乗る事で芯ができるから。因みに今回のオプションは、前回のポイントを踏まえて充分挑める範疇だ。他にもその身体能力を活かして例えば、ボクサーっていうのもある」 「人殴るのは、ちょっと」 「そうか。じゃ、十自転後にまた来るぞよ〜」  ぞよ〜って。  じゃ、朝も夜もここにはないけど、夢想しておきますか。 「計画したかね」  お、光の存在!もう十回地球が回ったか。光の存在は俺の思考を直接除いてるようだ。 「ふむふむ。まあ、これが其方のブループリントになる。肉付けは其方次第。そして、ここから出たら地球が三回公転する程でここまでの記憶は消えている」 「え、消えちゃうんですか?だったら計画意味ない・・・」 「意味なくはない」  光の存在は被し気味に説明してくれた。 「混乱を避けるためだ。今の瞬間を生きる為に最善な方法だ。だが、いつも其方が空を見上げた時、星の輝きとして其方の目に映るよう、何億年前からの光を届けるぞよ。それは希望であり、其方を守り、輝かせる光だ」 「スケールでかいっすね」 「でも忘れるから・・・。忘れるぞよ」  あれ?キャラ定まってない? 「忘れても、其方の計画をふんわり思い出せるサインをあげよう。そうだな。南の方に赴く機会に良い出会いがある。あとは・・・風が吹く」 「風ですか?」 「まあ、兎に角、なんにせよ。時は、満ちた」 「え?」 「最初の波がやってくる。波に乗れ」 「今?」 「ここから旅立つんじゃ」 「え?出口は?」  光の存在が指差す方向を見ると、入り口というか出口なのか?出口というか入り口なのか?が小さく光っている。 「狭くないっすか?」 「いけ!」  うわ、これが波か!俺を包んでいた空間そのものが収縮を始め、身体を押し出そうとする。まじかよ〜。 「もう一回!ゴー!」  えーーい!お、なんか頭が帽子のようにすっぽり出口にはまった感じ。で?どうしたらいい。おっと、きたきたきた。大波が俺をぐるぐる回しながらトンネルにねじ込んでいく。すっげ。すっげえ〜。 「オッケー、もう一回!」  ふううううういいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん。 「いってらっしゃい」  光の存在はそういうと、更に強い光に飲み込まれ、消えた。その瞬間、俺自身もその光の指す出口に吸い込まれていった。 「うわあ、いきなり寒いよ〜。なんか羽織るものくれ〜。っていうか眩しすぎて目が開けれん!え?まじで?切るの?俺の、俺のヘソーーー!」  色々訴えているのに完全無視。誰かの手に支えられてるようだ。 「落とすなよ。落とすなよ」  俺の言葉、通じない?でも、タオルのようなもので包んでくれたようだ。 「おめでとうございます。よく頑張りましたね。元気な男の子ですよ〜」 目の前に、大きな、おっぱい!願いがすぐ叶った。やっぱ、地球はいいな。  この人が、お母さんか。    
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