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それから気になって密かに目で追う日々。
先輩は菊川政子という名で一つ上の二年。
真っ直ぐ腰近くまで伸びた黒髪はいつも結ばれることはなく、制服か上だけジャージ姿で指示はするものの、ボールを出したりコートに入るのはもう一人のマネ、一年の白井梓だけ。
先輩は決してコートに足を踏み入れなかった。
声を掛けられないまま月の変わった六月。
部室からウォータージャグと救急ボックス、作戦ボードを持って歩いていると目の前には大量のノートを抱えてヨタヨタしている先輩が居た。
「あ、大丈夫ですか?少しでも持ちましょうか?」
「いい。必要ないから」
手伝おうと伸ばした手が届くことなく拒否される。
「あ、すみません。余計なことを……」
大人しく引き下がった俺はパタパタと走る足音が近づいてきたことに気づいて振り返った。
「あ、キクーっ!!もぅ一人でこんなに運ぶのは無理だって言ってるじゃん!」
女バスキャプテンのあの金髪ショートに碧眼が走ってきて思わず道を開ける。
「無理じゃない」
それでも止まらず進もうとする先輩の前に回り込んで、女バスキャプテンはため息を吐いた。
「腕プルプルしてるじゃん!ねぇ?って、あ!きみ、男バスに入ったマネの子でしょ?」
無理矢理ノートを半分以上奪いつつ俺に同意を求めようとして笑う。
どう見ても外人の容姿だけでなく整ったその顔とスタイルは有名で、そんな人に笑顔を向けられたことに戸惑った。
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