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「兄弟ですか?」 アホほど言われたセリフ。
「いえ、違います。」これもアホほど言ったセリフ。言うのはだいたい俺で、勇飛は隣でむくれている。友達同士にも見られない2人ってどうなんだろうか。
「もしかしたら、俺の方が兄に見えていたってことかもしれないな。」
「ものすごいポジティブ変換するじゃん。」
「そうでもしないとやってられん。」
公開を楽しみにしていた映画の初日に2人で来た映画館のロビー。チケットは前売り券で買っていて、パンフは見終わってから要検討ってことになって、ポップコーンは俺がキャラメル味で勇飛が塩味にした。
「そろそろ、入る時間じゃない?」さっきまでふくれっ面を晒していた勇飛がもうワクワクした顔になって目的の番号のシアターを探している。
「俺その前にトイレ行ってくるわ。」
「じゃあ、待ってる。」
「分かった。」
ロビーからちょっと歩いたところにあるトイレに入る。俺らと同じような年の人が多い気がする。今日見る映画は大人気コミックの実写化だからかだろうか。今日だけで何本か封切りになる映画があったっけな。アイドルの誰が出るとか話題になっていたが、原作が好きで見に来ている俺には特に興味のないことだった。男子トイレはすぐに空くが女子トイレはそうもいっていられないようだった。並んでいるのか喋っているだけなのか微妙な距離にいる女子2人組と目が合った。
俺はこんな身長だからか、よく人に見られる。まあ勇飛と並んでいるときの方がよっぽど目立ってしまうけれども。
「あのー。1人ですかー?」
目が合った女子の一人が声をかけてきた。
「え、何?」
いきなり話しかけられてビックリした。
「背ー、でっかいですねー。ちょっといいなーって思って声かけちゃいました。」
ねーっ!と2人でキャピキャピしながら話している。勇飛よりも小さい背。勇飛よりも華奢な体。なんでも勇飛と比べてしまう。
「悪いけど、ツレがいるから。」
言いながら足早にその場を去った。願わくは同じシアターじゃありませんように。
「遅くね?」キャラメルポップコーンを摘まみながら勇飛が言った。
「ゴメンって。」
「早く行こ。」
ポップコーンを両手に持ち、勇飛が俺の隣で歩く。つむじがばっちり見える頭。意外と鍛えている腕。
「こっちのがいいな。」独り言のつもりだったけれども勇飛の耳に入ったみたで、え?何が?と聞き返されたが、なんでもないと答えた。
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