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世界は愛で出来ている。
さらさらの綺麗な黒髪のおかっぱ頭。
潤んだ大きな瞳。
まあるい顔に、ふっくらと白い頬。
贔屓目抜きでも思う。千速ちゃんは、とっても可愛い。今はまだ小学生で子供体型だけれど、もう数年したらかなりの美人になることだろう。
そんな彼女が今、僕の目の前に正座している。僕をじっと見て、恥ずかしそうに膝をもじもじとさせながらあのね、と言った。
「大事な話があるの、リキくん」
「大事な話?」
「うん」
何だろう、と僕は首を傾げる。彼女と二人で語らうことは珍しいことでもなんでもないが、今日は随分と空気が違う。
僕の困惑した気配を察してか、彼女は視線を泳がせて何度も唇を開きかけ、そして閉じた。最初の一言を一生懸命探している様子だった。そんなに緊張することがあるのだろうか。一年や二年なんて付き合いではないというのに。
「……あの」
根気強く彼女の言葉を待ち続けて、大体三分くらい。カップラーメンができるくらいの時間をもってして、ついに彼女は決意を固めたらしかった。そして、言われた一言は。
「リキくんのことが、好きなの。私と、付き合ってくれませんか?」
突然の告白。僕はしばし固まって――やがて間抜けた声で言ってしまった。
「……ハイ?」
「だから!リキくんのことを、一人の男性として好きになったから!私と付き合って欲しいって言ってるの?」
「待って、ちょ、ちょっと待って!?」
僕、大混乱。そりゃ、目を見て真剣な顔でお話されたらそういうことを疑うのも当然だろうと言われるかもしれない。むしろ何で予想していなかったんだ、と読者諸兄には呆れられてしまうのかもしれなかった。
だが、ここに大きな壁が立ちはだかっているのである。何故ならば。
「千速ちゃん!?僕、猫だって忘れてない!?」
彼女は人間の女子小学生。
僕は猫。三歳の、オスの黒猫なのである。
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