<1・法律。>

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 さっきの“恋ってどんなもの?”というドラマは。このリングがない世界だったらみんなが自由に恋愛できるだろうな、というコンセプトで描かれた少女漫画が原作だったという(自分は原作を読んだことはないが)。しかし、このドラマに触発されて、ペアリング相手以外と恋愛がしたいと考える若者が増えてしまっては困る。政府は“ヒロインとヒーローがペアリング法で結ばれたパートナーという設定に変えるならばドラマ化してもいい”とお触れを出したらしい。  結果、設定が変更されて放送されているわけだったが。――果たして、自由な恋愛の世界を描きたかっただろう原作者はどう思っていたのか。そうやって政府主導で設定に手を加えられてもなお、ドラマ化のOKを出そうと思ったのは何故なのか。正直、勇気には想像もつかない話である。 「はぁ」  ため息を一つついて、指輪を入れた箱を閉じた。こうしてみると、ペアリングの指輪は結婚指輪か何かのようにも見える。しかし実際は、これは愛する人から貰える指輪、なんてロマンチックなものではない。運命の相手を強制的に決定する、いわば枷にも等しい存在なのだ。  毎日この指輪をつけて外出するように、と母親には口が酸っぱくなるほど言われていた。高校生くらいまで、勇気が指輪を家に忘れて出かけてばかりだったからだろう。いい加減、危機感を持てと言いたいわけだ。  それもそうだろう。なんせ勇気は、今年で十九歳になる大学一年生。それなのに、まだペアリングの相手と巡り合っていないのだから。  このままでは二十歳になると同時に、頭に埋め込まれたチップが反応して死ぬことになる。あと一年と少しで、自分はこの国のどこかにいるはずのペアリング相手と巡り合わなければいけない。これが憂鬱でなくてなんだというのか。 ――そんなシステムになってるってならさあ。何で、ペアリング相手の顔や氏名、現在地をアプリとかで送ってくれないのかなぁ。  今の時代にはスマートフォンもあるし、位置情報アプリもある。それらを駆使すれば、手間暇かけて運命の相手を探し出す必要もないはずだ。それなのにお役所に問い合わせしても“運命の相手が存命しています”ということしか教えてくれないと来た(運命のペアリング相手が不慮の事故や病気で死んだ時のみ再度AIによる選別を行わなければいけないため、役所では全てのペアリング情報と生存情報を把握しているのである)。  おかげで今の今まで、勇気は自分のペアリング相手がどこの誰なのかも知らないまま。  おかげで勇気は非を負うごとに、鬱々とした気持ちをため込んでいるのである。そんな柄ではないと自分でも思うのに考えてしまうのだ。このまま、ペアリング法をスルーして二十歳で人生を終えるのも悪いことではないかもしれない、と。
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