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ミコの声が、どんどん自信なさげに萎んでいく。きっと、勇気に話すまでにかなりの苦悩があったのだろう。散々悩んでやっと、勇気に話す決断が出来たのではなかろうか。
「それに、私」
ミコは泣き濡れた目で、勇気を見つめて言う。
「好きな人がいるのに、他の人とセックスなんてしたくない。他の人の赤ちゃんも産みたくないよ……!」
「それは……」
「私は、勇気くんが好き!本当は、勇気くんと結婚したいの!」
それは、心のどこかで予想できていた告白だった。小さな頃は何度も何度も、勇気くんのお嫁さんになりたい!と言われてきたのである。その後も、中学のみならず高校まで勇気の進路についてきた彼女。普段の言動といい視線といい、鈍い勇気でも流石に気づくというものである。
ミコが一番悩んでいることは、性転換のことではない。同性愛に偏見があるからでもない。
今の世の中にはけして許されない、“ペアではない人間に恋をしてしまった”から。勇気は唇を噛み締めた。自分にとって彼女は友達というより、妹に近い存在だ。嫌いなはずがないし、どうしてもと言うなら女性として見られないわけでもない。例え今の時点で自分にとって恋愛対象になっていなくても、付き合っていけば変わっていく可能性は充分考えられるだろう。
けれども、それは。其れだけは。
「ミコ」
わかっていても、宣告しなければいけない。
「俺は、お前のペアじゃない。そうだろう?」
「――っ!」
ミコが分かりやすく傷ついた顔をした。罪悪感で胸が切り刻まれる。それでも言うしかない。
彼女と恋人同士になれば、勇気も死ぬ。
勇気とペア設定されている、見知らぬ誰かも死ぬ。
そしてミコのペアである、真依という女性も死ぬことになる。それを断じて、忘れるべきではない。ペアリング法に逆らうとはそういうことなのだ。
「お前のことは嫌いじゃないし、大事な友達だと思ってるよ。好きだって言ってくれて嬉しい気持ちもある。でも……だからって俺がその気持ちを受け取ることはできないんだ。わかるだろ?」
「う、ううう……っ」
「ごめんな、ミコ。……俺は死にたくないし、お前にも死んでほしくないよ」
ミコの頬を、ポロポロと透明な雫が伝う。俺には彼女の涙を拭う資格なんてないのだろう。それでも今だけはと席を立ち、彼女の頭を隣から抱きしめてやることにする。幼い頃そうしていたように。
――何で、こんな法律があるんだよ、畜生。
恋とはどんなもの?
この世界ではあまりにも苦く――自由を縛る鎖でしかないのだ。
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