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<1・法律。>
“恋ってどんなもの?”
そんな、ありがちな恋愛ドラマが放送されるようになるまでは、かなりの紆余曲折があったらしい。原作は子供でも読めるような少女漫画だ。えっちな表現があるわけでもなんでもない。それなのに、ドラマ化するまではかなりの苦難を乗り越えなければならなかったという。
理由は単純明快。この国の放送倫理委員会――ひいては政府が、“この内容では放送できません”とストップをかけてきたから。
不思議な話だ。このドラマが放送されるのが百年くらい前だったなら、きっと誰も止めることなどしなかっただろうに。
――恋って、どんなもんなんだろうな。
たまたまつけたチャンネルでやっていたドラマを流し見して、大迫勇気はため息をついた。
特別恋愛願望があるわけでもない。それでも時々思う。
百年前の人達が、ちょっとだけ羨ましいと。
『恋ってどんなものかしら』
ヒロインの少女が、うっとりした顔でヒーローに向かって語りかけている。公園のベンチに座り、クリスマスツリーのネオンを見ながら、二人だけの時間の共有。隣にいる背の高いヒーローを演じているのは、今話題の人気俳優だ。
彼は彼女の手を取って口づけながら、王子様さながらの甘いマスクで語るのだ。
『それは、このリングが教えてくれるさ』
彼が口付けたのは、少女が中指に嵌めていた銀色の指輪。
原作には登場しなかったこの指輪を、ドラマではキーアイテムとして盛り込むこと――それが、ドラマ化の絶対条件だったという。
原作は“あのリングがなくても”自由に恋愛できる世界だった。
現実は違う。余計な夢を見せてはいけないし、与えてもいけない。それが今の政府であり、世界の方針なのだった。
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