第二の手紙

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 ほんとうはヒロミと名づけられるはずだった双子のアネは、物心ついたときからもちろん存在していなかったし、当然生まれてからオレはひとりっ子として育てられ、父も母も、そして祖父においても双子だったことを口にしたことはなかった。それでもオレは、夜明け前のなんとも不思議な色の東の空が神々しく美しかった記憶とともに、ヨーコチャンが囁いた微風のような言葉を新しい真実だと確信し、双子のアネがこの宇宙のどこかで生きつづけていると信じはじめた。 ──もうひとりの胎児が死産だったり出生後に急死したとは思えなかった── 以来オレは、母や父よりも身近な存在として、そして生きていくうえでのかけがえのない励ましつづけてくれるパートナーとして、見たことも会ったこともない双子のアネに、大切なことを語りかけつづけながら成長してきた。  ──アネちゃん! オレが住む国鉄官舎に、ひと足先に中学生になったひとつ歳上のナミちゃんという女の子がいるんだ。ナミちゃんもひとりっ子だけれど、オレたちは兄弟のように仲がいい。待ち合わせて一緒に下校した際、一生ほんとうの姉弟のように仲良くしようね! といったら、ナミちゃんは、一瞬じっとオレを見つめると急に走り出してしまった。あのときオレは、どうしてナミちゃんが急に走り出してしまったのか、まったく理解できなかったけれど……  それからナミちゃんは、急に立ち止まって振りかえると、長い髪を(わずら)わしそうにしながら(つぼみ)のような口を小さく動かした。声が小さくてオレには何も聴こえなかったけれど……
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