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東北地方太平洋沿岸の小さな村にある国鉄官舎に、オレの家族もナミの家族も住んでいた。白いコンクリート造りで2階建の官舎は、南北に3棟平行に並んでおり、父はこの村から10数キロ南下した地方都市の国鉄の電力区まで通っていた。
晩ご飯を終えて、2階の自室の、南側のカーテンを開けると、ひとつ南棟の平行にまっすぐ先のナミの部屋がまだ暗いままだった。しかたなく紺碧色の夜空に煌めく星たちを眺めながら、いま自分が見ている星の光が何十億光年もむかしに発せられたものだという覚えたばかりの知識に思いを巡らせていると、ようやくピンク色のカーテンが明るくなってうっすらと人の動く影が認められた。
オレはうっすらとした人影が止まったまま動かなくなったのを見定めると、ふたたび紺碧色の夜空を見あげ、煌めく星たちの中からひときわ赤く光る一等星を見つけた。ずっとオレやナミを見守ってくれている一等星として……
ほどなくして明るいピンク色のカーテンにもう一つの大きな人影が映り、明るかったカーテンが暗くなった。オレは暗くなった窓を凝視しながら不安にかられ、アネちゃんに語りかけずにはいられなかった。
──アネちゃん! あの大きな人影はきっとナミちゃんのお父さんの影だろう。ナミちゃんは酔ったお父さんはすごく息が臭くて、大嫌いだといっていたけれど!
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