第二の手紙

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 同じ年の蒸し暑い夏の晩、 ──ちょうどお盆の頃、晩ご飯を食べ終え茶の間でテレビを観ていると── ナミの父親がいつになく真剣な表情で訪ねてきた。オレが2階の自室へ上がると、父と母とナミの父親は、1階の茶の間で息を詰めたように話しはじめた。どうしても気になったオレは、暗い階段を踏みはずさないよう慎重に下段まで下りると、茶の間の3人の会話が聴こえてきた。 ──蒸し暑さのためTシャツの裾で顔の汗を何度も(ぬぐ)いながら── どうやらナミの父親は自分の妻であるナミの母親ついて、語気を強めたやや低い声で、ひとつのことをくり返し訴えているようだった。女房が勝手に貯金を全額使ってしまったと! ──後日、ナミの母親がある韓国系の宗教団体にのめり込んで貯金を全額献金していたことを知ったのだが── ナミの母親は、ナミの華やかで端麗な容姿とは違い、どことなく地味でおとなしい印象があり、いつも長い髪を後ろで束ねていた。ナミと兄弟のようにとても仲がよいオレに対して、いつもゆっくとした丁寧な口調でお礼を述べてくれた。  ──ユウちゃん! いつもナミと仲良くしてくれてありがとうね。ユウチャンのことはいつもナミから聞かされているんですよ!  しかしナミの母親は、ナミをおいたままなかなか国鉄官舎の自宅に帰って来なかった。  ──アネちゃん! ナミちゃんのお母さんが帰って来なくなってしまったよ! どうしてだろう、あんなにナミちゃんのことを(いと)おしく大切に思っていたはずなのに!
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