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第三の手紙
──もう4年くらい会ってないし、一緒に住んでもおらんから、事件起こしたとか言われても、知らん!
貴方は兄の起こした元首相銃撃殺害事件について、上記のようなコメントをマスコミのインタビューで答えていたようだが、オレはそのような貴方に、ひと昔前に起きたあるひとつの小さな出来事を伝えたいと願う。きっと貴方なら不機嫌な顔をしながらも耳を傾けてくれると信じて…… 地元テレビのローカルニュース番組や地方新聞の県内版に掲載されたひとつの小さな事件を。今でも紺碧色の夜空に煌めく赤い一等星を見つけると思い出す、ほんに小さな生命のまことの叫びのような事件を……
十数年前、 ──オレが高校2年生のとき── その事件は仙台市内のある施設で起きた。地元のローカルニュース番組で報道され、地方新聞の県内版にも掲載されたが、まだ韓国系の宗教団体がほとんど社会問題化されていない時期だったため、すぐに人々の記憶から忘れ去られる程度の事件だった。
8月の初旬、盛夏の仙台市内は東北三大まつりの一つ仙台七夕まつり ──3000本もの吹き流しを中心とした七夕飾りが仙台市中心部を彩り、およそ200万人の観光客が訪れる── で賑わっていた。その仙台市中心部からほど近い場所にある韓国系の宗教団体の仙台支部にひとりの少女が現れた。少女は信者である自分の母親の名前を告げ、自分が2世信者だと申告し教会内に入ると支部長との面会を求めた。そして面会に応じた支部長 ──60代の初老の男性── と短いやり取りをしたのち、突然、持参したサバイバルナイフで切りつけたのだ。腹部を刺された支部長は重症を負い、少女は教会内の信者に取り押さえられ、通報を受けた警察官に引き渡された。
少女が18歳の未成年者であり、実際に少女の母親がこの韓国系の宗教団体の信者であったことのほか、少女が起こした殺人未遂事件の動機等の詳細は報道されなかった。しかしオレはテレビのローカルニュース放送を観た瞬間から、激しい無力感と心奥から湧き起こる強い罪障感とともに、その少女が幼馴染みのアネモネのような笑顔のナミであることを疑わなかった。
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