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「準備ができた。あっちへ行こう」
朝倉が意味ありげにそういった。裕子も徳田もうなづいた。
「さっ雪江ちゃん。あっちの部屋へ行ってお茶でも飲みましょう」
裕子がそう言って手を差し伸べた。
雪江は元内との話の途中で酔い潰れてしまい、寝かされていたとわかった。再会したばかりでもう迷惑をかけている。
座敷を出て、渡り廊下を行く。その先には別館のような建物がある。徳田がその戸を開けた。
その部屋にはふかふかの絨毯が敷かれ、十人は一緒に座れそうな丸いテーブルがあった。もちろん座り心地の良さそうな椅子もある。ここだけをみると元の世界へ戻ってきたような気がした。
「あ、やった。椅子とテーブル。もう正座はうんざりしてる」
「私たちは正座には慣れたけど、やっぱりこういうのも落ち着くわ」
「ここは俺たちが定期的に集まって昔の、あ、いや、21世紀の話をするところなんだ。そのために先生がここを作ってくれた」
奥には台所もあるのだろう。そこから洋風ティポットを久美子が持って現れた。
その香り、ロイヤルミルクティだとわかった。
「神宮字さん、お久しぶり。ようこそ江戸時代へ」
そんな言い方に皆が苦笑した。
保健の先生、杉田久美子だった。
「先生も全然変わらない」というと朝倉が苦笑する。
「すみません。だってこの江戸時代に知り合いがいるわけないって思い込んでたから朝倉先生だったわからなかったの」
「いや、わかってる。なにしろ俺たちは別々の時にこの江戸へきたんだ。そのことにも何か意味があると思ってた」
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