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「初めて末吉と会った時、かつらが取れちゃったの。それで栗色の髪の毛を見られちゃって。末吉ったらさ、物の怪だって叫んだのよ。けど、良い物の怪なんだって。願い事を叶えてくれるような。そう言ってくれたから他の人たちに気味悪がられずに済んだの」
「はあ、そういうことか。それってさ、うまくいけば新しい神様信仰に繋がりそうだよな。なにしろこの日本ってさ、八百万の神っていうだろう。なにかと日本人は神様が好きなんだ」
「わかる。けど私にとっては末ちゃんこそが天使だよ」そう言って笑った。
川沿いの道から橋を渡る。そしてすぐ角を曲がるとそこが式部長屋だ。
「ありがと。ここでいいよ。木戸番の人に言えば中へ入れてもらえる」
「オッケー、じゃあ、明日、店で」
「うん、朝から行くね。送ってくれてありがとう」
「いいって」と徳田はもう背中を向けて、手を挙げバイバイしていた。
龍之介と小次郎、お絹までが雪江の帰りを待っていた。
「関田屋さんから知らせが届いてたから心配はしていなかったけど、大変な目にあったね」とお絹がそう言って出迎えてくれた。
雪江は、自身番に投げ文をしたのは福助だったことをいうとお絹は烈火の如く怒った。次に顔を合わせたらあの澄ました生意気な顔がボコボコになりそうなくらいに。
雪江も同じくらい腹を立てていたが、こうして目の前で怒っている人を見ると心が軽くなっていく。
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