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「なんだかもう福助のこと許せる」とぼそりといった。
「えええ〜っ何いってんだい。あんたはあのチンチクリンに嵌められたんだ。下手すりゃ打首になっていたかも知れないんだよ」
お絹は興奮して雪江の方を掴み、ブンブンと揺さぶった。その拍子にまたカツラが落ちた。
「私だってそれを聞いた時は今のお絹みたいだった。でもあいつ自分のしたことで青くなってたって。それでもうこの罪は帳消し」
龍之介は熱燗を湯呑みに入れてお絹に差し出した。
「まあこれでも飲んで落ち着きなさい。お絹ちゃんが怒るのもわかる。しかし、雪江が許すとあればそれを受け入れようぞ」
お絹は湯呑みを受け取り、酒を一気に飲み干した。まるで少し前の雪江のようだった。
「まあ、そうだね。雪江が許すというならそうするよ。けど、顔を見たら一発くらいぶん殴ってもいいだろう?」
お絹なら本当にやりかねない。雪江は福助がこの長屋に近寄らないことを祈った。
「そいで、私、明日から関田屋さん関係の旅籠あかりと料亭のお手伝いをすることになったの」
「働くのかい?」
「うん」
「雇ってくれるってのかい? こんな雪江を?」
そんなに何度も念を押さなくてもいいのに。
「じゃあ、旅籠の朝は早いっていうから早く寝な」
そんな捨て台詞を吐いて、お絹は帰っていった。
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