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通りを通る人の足ばかり見ていた。ホウキで人の足を引っ掛けなければいいんだと思っていたからだ。
竹ぼうきを動かすとそもそもが竹の小枝の集まりだから、それらが地面を擦り、砂埃が舞った。そばを通った天秤棒を担いでいる男が顔をしかめる。
「おい、気をつけろよ。風で砂埃が目に入っちまったじゃねえか」
「あ、すみません」
慌ててペコリと頭を下げた。その男は、チェッと舌打ちをし、そのまま足早に行ってしまった。
あの人も将来のお客さんになるかもしれない。あんなことがあれば、ここへはこないかもしれない。気をつけなければとそう自分に言い聞かせた。
「ちょいと、あかりさん」
それが雪江に対して声をかけられた言葉だとは思っていなかった。
「ねえ、ちょいと」
向かいの店の暖簾から同じような年の娘が顔を出している。こっちを睨んでいる。
「あ、私のこと?」
「そう、料亭あかりだろう、あかりさんで返事をしなよ」
心の中で、私はあかりっていう名前じゃないからね、と毒づく。
「で、なんでしょう」
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