過・過・過集中

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過・過・過集中

僕は集中しすぎると、周囲の音が一切聞こえなくなる『過集中』という状態になりやすい。 まわりの受験生は、静かな自習室に行ったり、イヤホンをして雑音を消したり、集中するために色々なことをしている。 僕にそれは必要ない。 頭の集中スイッチをぱちんと入れるだけで、あっという間に静かな自習室の状態と同じになる。もしくは、それ以上。 今日の僕は、近所の騒がしいファストフード店で受験勉強をしていた。いつものように集中スイッチをばちんと入れる。英単語帳を開く。なかなか覚えられずにマーカーを引いたabsolute と共に、まわりの音がだんだんと消えていく。 英単語がするすると脳の中に吸い込まれていく。余計な物が一切ない、濾過し切った状態の頭の部屋に、するする、するする。共通テストまで1ヶ月を切り、前よりも一段と集中力が上がっている。するする、吸い込まれていく。 今日はいつもよりも『過集中』の度合いが高い気がする。視界がぼやけてきた。そのぼやけた視界からでも、英単語は吸い込まれていく。 expected、priority、heird、 視界がぼやけてくる。僕の目には、英単語はもうほとんど謎の記号のように見えていた。 これ以上いくと、危ない。 本能がそう呼びかけてきた。 前回の模試で思うような結果が出ず焦っていた僕は、その集中を止めなかった。このまま覚えられるだけ覚えよう。そうベクトルを切り替えた。 その瞬間、視界がぬるっと回転した。 そして、すぽんと床に落ちた。 「痛っ…」 尻をさすりながら、顔を上げるとそこは真っ白な部屋だった。何もない真っ白な部屋。自分の息だけが部屋に響いている。 僕は、そこでもうひとつ気づいた。 「静か、だ」 この部屋は何もない部屋というだけでなく、物音ひとつない、とても静かな部屋だ。 右手には、先ほどの英単語帳と、ピンクのマーカーが握られていた。 この場所が一体どこなのか? この場所に僕はどうやって来たのか? 元の場所に帰ることはできるのか? 僕は頭の中のやまほどの疑問を無視して、 ひとつのことを思いついた。 今の僕にとって、非常に魅力的なこと。 「ここで、勉強しよう」 僕は『過集中』の果てに、他の受験生が使っている自習室のどれよりも集中できる、真っ白で静かな、最高の自習室を見つけた。
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