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「怪我が原因で、騎士をやめたわけではないのですよね?」
私らしさを出しつつ、健気な女性を装ってみる。
間違った情報を口にしているかもしれないけれど、アルフレズは結構優しい性格をしていると思う。
出された食事が、彼の性格を物語っていると信じてみたい。
会話が可笑しな方向に進んだとしても、アルフレズならプレイヤーを絶対に救ってくれる。
「それもトウマから?」
「いえ、アルフレズ様の所作があまりにも美しかったので……怪我が原因で騎士をやめたのではないと自身で判断しました」
少しは乙女ゲームらしくなってきたんじゃない!?
展開が理想通りのものになりつつあることに、心の中でガッツポーズを決めてみる。
口元すら緩んでしまいそうになるけれど、さっさと恋愛フラグを立てて私は2人目の攻略キャラクターに会いにいきたい。
(ごめんなさい、アルフレズ……。このゲームはR-18にはなれないの……)
どこかで、私の心の声は漏れてしまっているんじゃないか。
そんなことを思ってしまうほどタイミングよく、どこかから人々の悲鳴が聞こえてくる。
もちろん華やかな食事の場には相応しくない、恐怖と必死さの伝わる悲しい声を私たちの聴覚が拾い上げる。
「アルフレズ様、行って参ります」
「リッカ! 異世界から来た君が、この世界のために力を使う必要は……」
地位ある人との食事ということで少しはいい恰好をさせてもらったけれど、裾の長いドレスと高さあるヒールの靴は非常に走りづらいような気がしてならない。
シンデレラは、よく硝子の靴で走ることができたなと感心してしまう。
「力ある者が力なき者を救うのは、当然の義務ですよ」
「…………」
こんなにヒロインっぽい台詞を口にしていても、アルフレズと別れたあとに無事走り切れるのか不安だった。
「本日は、お招きありがとうございま……」
「リッカ、僕も行く」
綺麗に立ち去ろうとするシンデレラを引き留めるのは、やっぱり王子様って存在なのかもしれない。
「しっかり掴まっていて」
「はい……」
私は自力で走ることなく、アルフレズの愛馬で魔物が人々の平和を脅かしている現場へと駆けつけることができた。
馬に不慣れな私を常に心配してくれるアルフレズを見ていると、トウマが教えてくれた女たらしって設定を忘れてしまいそうになる。
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