彼を殺したのは誰?

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 彼が死んだ。 「まあ状況から見て自殺でしょう」なんともやる気のなさそうな中年男の警察官は私にそう言った。  その警察官の話では都内のホテルで死んでいたところを従業員が見つけたらしい。死因は服毒。一人でチェックインをし、監視カメラの映像を見る限りその部屋を訪れたほかの人物は確認できなかったという。持ち物はスマホと財布のみで、遺書の類は遺されていなかった──と説明して警察官は「まあ状況から見て自殺でしょう」と言った。  警察官は私に最近の彼の様子を訊いたが、自殺の予兆なんて見られなかったし、死亡した当日、私は地元の友人の結婚式で前日から実家にいたため詳しいことは答えられなかった。彼が死んだという日の前日も、ひとりでちゃんとやっているかを電話で確認したが、おかしな様子はなかった。ただひとつ変わった点といえば翌朝、つまり自殺した日の朝に送ったおはようのメールに返事がなかったことだ。いつもならちゃんと一言でも返事をしてくれるはずなのに。  私の話を聞いて警察官は「ううん……」と(うな)った。ほかの関係者の話と統合しても自殺の理由が見えてこないようで、「本人にしか分からない理由で、ということも多々ありますから……ご愁傷様です」と付け加えて警察官は帰った。  部屋にひとり残された私はまた糸が切れたように泣き崩れた。無遠慮に差し込む夕日が真っ赤に腫れた私の目をさらに搔きむしる。  彼がなぜ――。何度も繰り返した問いがまた私の頭の中で反響する。彼が自殺をするなんて……。  彼と私は一年間の同棲生活を経て先日、婚姻届けを提出したばかりで、二人とも幸せの真っ只中にいたのだ。白いカラーボックスの上にはその記念日に撮ったツーショット写真が飾られている。私はその写真立てを手にとった。写真の中の彼は笑っているようで、どこか憂いた表情をしている。  ――そうだ。彼が自殺をする理由などないのだ。きっと事件に巻き込まれたか……誰かに殺されたに違いない。  私は乱暴に目をこすり、写真立てを戻した。
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