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私は総毛立った。物語の中では〈私〉が自殺で失った〈彼〉との過去を振り返りながら、死の真相を探ろうとしている。これはまるでさっきまでの私?
そして端々に表れる彼の言葉に、私は彼の本心を知った。写真立ての中で笑う彼の憂いた表情に私は初めて気付いた。
彼の夢を聞き入れようともしなかった私は、あのとき彼と喧嘩をしたのだろうか? 一方的に彼をまくしたてていただけだったのではないか。
彼にとって読書は閉じこもっているわけではなく、それこそが仕事の気分転換、安らぎになっていたことを私は考えていなかった。彼がどれだけ仕事に疲れていたのか、私に心配させまいとしてくれていたのか。私はそんなことも知らずに自分のやり方を彼に押し付けていた。私は今ごろになって知った。
物語では〈私〉が〈彼〉のノートパソコンの暗証番号を探っている。ついさっきまで私がしていたことだ。そしてうまくいかず、ひとまず諦めた〈私〉は部屋が暗くなるまで〈彼〉がつくっていた授業ノートを眺める。
〈私〉は元カレからの着信に気付き、〈彼〉との馴れ初めを回想し始めた。そして私は自分の行いが原因で彼が友だちを一人失ったことを知った。元カレが彼の友人としてふさわしくないと考えていたことまで見透かされている。私は苦しいほどに胸が締め付けられた。鼓動は速くなり息苦しい。それでも私は読み進めた。
先ほどの私と同じように、〈私〉も空腹を覚え、キッチンに立ち、冷蔵庫を開けた。そして〈彼〉が残した豆腐ハンバーグを嚙み潰している。〈彼〉の服をすべてゴミ袋に詰め、〈彼〉の本に手をかけた。そこで「1984」の暗証番号を見つけ、このパソコンを開く。〈彼〉の『遺書』を開き、読み進める。〈私〉が私に追いついた。それじゃあこの先にあるのは?
それは彼の最後の言葉だった。
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