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幼い頃の夢を見た。
まだ幼稚園児だった頃、俺は今みたいにひねくれておらず素直で、それでいて今と変わらず超カッコ良……可愛くて、隣には必ずあいつが居た。
『りおちゃんをいじめんな!りおちゃんいじめたやつはぜーいんタイホするぞ!!』
昔は気が弱くていじめられっ子だった俺をいつも守ってくれた。父親が警察官だったせいか、誰よりも正義感が強くて、誰よりも優しいあいつ。
『りおちゃん、ずーっとぼくがまもってあげるからね。おとなになってもずっとだよ。そうだ、おおきくなったらぼくとけっこんしよう?そしたらずっといっしょにいられるんだっておかーさんが言ってた!』
あいつ、俺があんまり可愛いからって本気で性別間違えてたんじゃねぇだろうな。それともほんの五歳のガキだったし、日本じゃ男同士は結婚できないなんて法律、まだ知らなかったのかな。それでも俺は嬉しかったけど。
『りおちゃん、だいすきだよ』
大人になっても一緒にいるっていう約束が、
『りおん、』
俺を守ってあげるという言葉が、
『理音、』
結婚しようと言ってくれたあいつの、
「おい、理音。そろそろ起きろ」
ゆさゆさと身体を揺さぶられて、俺は夢から覚めてぱっちりと目を開けた。30センチもない距離、目の前にいたのは、
「……昂平?」
「起きないとキスするぞ」
がば!!
「おっと」
「……っなんで俺の部屋に居んだテメー!!」
幼なじみの、犬塚昂平だった。
「なんでって、美奈子さんに入れてもらったからに決まってるだろうが。勝手に入ったら不法侵入だ」
しれっとした顔でそう言う昂平がムカついたけど、正論だったから俺は矛先を変えた。
「かーちゃーん!!コイツを勝手に俺の部屋に入れんなって何回も言ってんだろ!!」
そう叫んだら、階下から声が飛んできた。
「ちょっと理音!!まだお父さんと花音が寝てるんだから静かにしなさい!!何時だと思ってんのよ!!コーヘイ君が部屋に入るとか今更でしょうが!!」
「……美奈子さんも大概だな」
「何笑ってんだよ。ってもうこんな時間!?あ、朝練……おまえ先に行ってろ!」
「待ってるから、早く準備してこい」
「チッ」
意味のない舌打ちをして、俺は昂平を部屋に残すと慌てて階下に降りていった。まだ時刻は朝の5時で、母は毎朝俺の弁当と朝飯を作ったらまた寝直す。会社勤めの父も、小学生の妹もまだ夢の中だ。
走りながら服を脱いで浴室に飛び込む。まだ半分寝ぼけている頭をシャワーでしっかり覚ましたあとは、顔にローションをはたき髪をドライヤーで乾かす。そしてダイニングテーブルに用意されていた朝食を5分で食べて、歯磨きへと直行。そんなバタコさん状態の俺に、母はため息をついて呆れたように言った。
「毎朝毎朝嵐のようね、理音。もーちょっと早起きしてなんとかなんないの?足音もうるさいのよ」
「無理無理っ!日本一忙しいコーコーセーに対して何言ってんの、かーちゃん!」
「だったら部活なんて辞めなさいよ、朝練なんて参加しなくてもいいんでしょアンタ、コーヘイ君と違ってレギュラーじゃないんだから」
「う……」
母の言うことはもっともだ。でも。
「……放課後は忙しいから、朝練くらいはしないとトレーニングになんないだろっ」
ただの下手な言い訳だ。
「トレーニングねぇ……」
また足音をバタバタさせて部屋に戻ると、昂平は俺のベッドに横たわって雑誌を読んでいた。 やけに真剣な顔で。どのページを眺めているのかは、見なくても分かってる。俺は気にせず制服を着込み、学校へ行く準備が完了した。
「行くぞっ、昂平!」
昂平は俺の言葉に反応して、顔を上げた。そしてマジマジと俺を見つめると、「雑誌から抜け出してきたみたいだな、理音」なんて、馬鹿みたいな発言。
「服装が全然違うだろ」
「まあな」
「それより早く行くぞ!エースが遅れたりしたら補欠にやっかまれんだろーが!」
「お前がやっかむのか?」
「はあ?」
確かに俺は補欠だけど、なんで俺がお前をやっかまなきゃいけないんだよ、馬鹿。この後もうだうだ言いながら、俺たちは俺の家を出た。
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