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「今日、仕事が入ったのか?」  声に反応して顔を上げると、昂平がじっと俺を見つめていた。話しかけてんだからそりゃ見るだろうけど。でも俺は昂平に見られるとドキドキしてしまうから、つい目を泳がせてしまう。 「モデル仲間が風邪引いたから、俺が代わりに出られないかって」 「そうか。なんの撮影だ?」 「千歳くんの着るはずだった服を俺が着こなせるわけねぇから、多分ファッション誌じゃねぇな。また脱がされるんじゃねえの?」 ははっと自虐ぎみに笑った。 「理音、お前さ」 「あ?」 「その、脱ぐ仕事とか断らないのか?」 珍しく昂平が仕事のことに口を挟んできたので、俺は目を瞬かせた。 「なんで?」 「いや、なんでって…お前はまだ高校生だろ。18禁的なやつとかダメなんじゃないのか?」 少し照れたような言い方に、思わずぶほっと吹き出してしまった。 「うわ、米粒飛ばすな馬鹿。汚い」 「わ、悪ぃ……くくっ。つーか内容はちょっとエッチだけど、別に俺が出てるのは18禁じゃねぇよ、ただの女性誌!今時少女マンガだってエロいだろーが。なんか女向けってそういうエロとかの規制が男より緩いんだよな、意味わかんねぇけど。それにメインは俺じゃなくて女性のモデルだし。俺はただの絡み役っつーか、相手役で呼ばれてるだけだから」  たまたまそんな撮影で人気が出て、似たような仕事が増えてるってだけだ。セクシーだとかクールビューティーだとか色々言われてるけど、結局俺は少女漫画に出てくるような男のイメージなんだろうなって勝手に思ってる。  アイドルもそうだけど、やっぱり繊細な男っていつの時代でも一定の人気を保ってるもんな。まあ俺の場合、脱いだらけっこう筋肉付いてんだけど。逆にそれがいいって言われてるけども。 「そうなのか?」 「そーだよ、それに俺は被写体だけで一切インタビューとかされてねぇだろうが」 「ま、確かに」 「昂平がいきなり18禁とか言い出すからびびったぁ」 まだ笑いがおさまらなくて、俺はくつくつ笑い続けた。 「……ま、理音には今更って感じなのか」 「え?」 昂平の声のトーンが変わって、俺は思わず笑うのをやめた。ゆっくり顔を上げて、昂平の目を見る。 「18禁的なこととか、もう慣れてるんだろ?確かにお前からしたら笑えるな」 「な、何言って……」 何言ってんだ?昂平。 初めて見る、冷めたような目。軽蔑してる目。軽蔑?昂平が? ――俺を? 「お前ヤリチンとか自慢できることじゃないからな。病気とかうつされたら笑えないぞ」  ああそっか、俺ってヤリチン設定なんだった。口ではそう言ってるけど、実際は女と遊んでるヒマなんかないってこと、昂平なら分かってくれてるって勝手に思ってた。  佐倉先輩や進藤に、モテるとかヤッてるとかアピールしてんのは全部嘘だってこと、昂平だけは見抜いてくれてるんじゃないかって思ってた。俺がまだ童貞だってことも。 「理音?」 ンなワケねぇよな、言ってねぇもん。なんだか全身の血液が、さあっと足元のほうへ落ちていく感覚がしていた。 ──きもちわるい。 「おい、どうした?」 「なんか、きもちわる……」 「理音?いきなり顔色悪くなってるぞ?」 昂平が俺のことを、全部分かってくれてるはずなんかない。だって全部わかってくれてたら、 「理音?」 昂平が好きな俺なんて、気持ち悪くて……一緒にいてくれるわけ、ねぇもんな。 「理音!」 眠いんだか気持ち悪いんだか、もうわかんねぇ。ただ、頭が痛い。 ああ、俺って馬鹿だな。一番誤解されたくない人に誤解されるようなことをわざと言いふらして、ほんとに誤解されてるって分かった途端に傷付くって、ホントに馬鹿。 「理音!!」 だって昂平に嫌われたくねぇんだもん。好きだってばれたくねぇんだもん。仕方ねぇじゃん。そう、仕方ねぇんだよ……。 どんどん意識が薄れて行って、気を失う前に焦ってる昂平の顔がうっすら見えた。
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