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いつものように理音と昼メシを食っていたら、いきなり理音の顔色が悪くなってぼーっとしだした。
「理音!」
慌てて立ち上がり、椅子から転げ落ちそうになった理音の身体を支える。が、机を挟んだ向かいからの腕の力だけじゃ支えきれず、理音は椅子ごと床に倒れ、突然の出来事に近くにいた女子数名は悲鳴をあげ、教室内は一時騒然となった。
「きゃーっっ!猫田くんが倒れたぁ!!」
「犬塚、大丈夫か!?」
「誰か先生呼んできて!」
俺はすぐに理音に駆け寄り、その身体を横抱きにして抱き上げた。理音はモデルなので身長はある。でもモデルだから体重は軽い。
「理音を保健室に連れてく。悪いけど、片付けを頼む」
「わかった、先生に言っとくね!」
誰かは知らないが理音のクラスの女子にそう頼んだ。俺は急いで教室を出て、保健室へ向かった。
「うわ!?」
「犬塚誰だそれ……ってRIONじゃん!」
「えーRIONどったの!?」
校内で有名な理音は目立つ。なるべく顔を見せないように顔は俺の方に向けているが、やはりオーラは隠せないらしい。
それと、ただでさえデカイ俺がまあまあデカイ理音を横抱き……いわゆるお姫様抱っこをしている姿は嫌でも目立つようだ。でも、そんなことを気にしてる場合じゃない。
──確かに最近、理音はずっと顔色が悪かった。でも蒼白いのは元々だし、朝練には参加して運動もできてたから、ここまで深刻だとは思わなかった。弁当だって途中までは普通に食べれていたはずだ。なのに、なんでいきなり?
『ま、理音には今更って感じか』
……俺は、なんであんなことを言ってしまったんだろう。何で理音に意地悪なことを言ったのか……理由は単なる嫉妬だ。
理音は高校に入ったあとモデルの仕事を始めて、元々モテてたのが更にモテだして、俺の知らない交遊関係がある。いつ童貞を卒業したのかは知らないが、チャンスはいつもそこらへんに転がってるんだろうと思う。
俺は、理音を想像しないと勃起すらしないのに……。
そんなわけでめちゃくちゃ自分勝手だけど、俺がそんななのに毎日女と遊んでいると吹聴する理音が単純にムカついた。
変な病気になると心配したのは本心だけど、恨みを買って刺されでもしたら……
「……昂平……」
「理音!?」
俺の腕の中で、少しだけ意識が戻ったみたいだ。
「理音、大丈夫か!?今保健室に」
「俺、遊んでないよ……」
「え?」
つうっと、理音の目から涙が一粒こぼれた。
「遊んでない……」
遊んでない?どういう意味だ?
それだけ言って、理音はまた気を失ってしまったようだった。
「と、とにかく保健室に向かってるからな!」
俺は更にスピードをあげて保健室までダッシュした。
「小野先生!!理音が倒れました!」
「は?」
「2年3組の猫田理音です!!」
「……あぁー、モデルの?どうしたよ」
うちの学校の保健医はおっさんだ。いや、俺たちにとってだが。35っておっさんだよな?先生は否定するけど。でも無精髭を生やしてる上に髪はぼさぼさで、白衣の下の服もヨレヨレ。どっから見ても立派なオッサンだと俺は思う……って今はそんなことどうでもいいんだ。理音を助けてくれ。
「オイ、寝てるだけじゃねーか」
「え?」
俺は腕の中の理音を見た。さっきはかなり蒼白かったのに、今は顔色も戻って、スヤスヤと寝息を立てている……え、マジで寝てるだけ?
「弁当食ってる時にいきなり顔蒼くして、ガターンって派手に倒れたんですけど」
「ふーん、寝不足なんじゃねーか?それで貧血起こしたか。猫田ってけっこう売れっ子で忙しいんだろ?なのに部活も勉強も頑張っててステキよね、とかなんとか女子が話してるのを聞いたことあるぞ」
「………」
「だからあたし達とはぜんぜん遊んでくんないって嘆いてたな、もったいねー話だ。いっそコイツと顔面交代してぇわ、俺が有効活用してやるから」
「冗談でもやめてください」
「冗談に決まってんだろ。まぁいい、ベッド空いてるし起きるまで寝かせといてやれ」
どこまでも適当な小野先生の言葉に甘えて、(どっちにしろ理音は爆睡してるし)空いてるベッドにそっと理音を寝かせた。もう涙は止まってて、穏やかな顔で寝ている。
──遊んでないって、そういうことか。
確かに、理音は頑張ってる。なんでそんなに頑張るんだ?ってこっちが不思議に思うくらい。そんなの、一番近くにいる俺が一番分かってあげないといけないのに……。
「……意地悪なこと言ってごめんな、理音」
そっと額に手を当てる。俺の方が体温が高いのか、理音の肌は少しひやっとしていた。
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